第32話 恋愛感情の出し所
カランとドアを開けると、丁度良いことに「食べ飲み処 ばくばく」の店内は程良い客入りだった。
俺が会釈すると、竜さんが俺達を見ていらっしゃい!と声を掛け、何時ものカウンターではなくテーブル席へと案内された。
注文は店員を呼んでこれとこれと、と伝えるタイプで、よくあるタッチパネルではない。店員さんとのやり取りに温かみみたいなものを感じるようで、こちらの方がこの店に合っていると竜さんは考えているらしい。俺もそう思う。
俺はビールを頼み、クミは悩んでいたが結局同じビールを頼んだ。初めて会う男の前で酔っても良いものかどうか悩んでいるように俺には見えた。
要は酒の種類で悩んでいたのではなく、アルコールを飲むかどうかで悩んでいたのだろう。
複数の女とデートを重ね見えたことだが、女はそういう男であればあまり気にならないであろう所を気にする節がある。
逆に大抵の男が気にする所を気にしない事もあるので、こういう所から男女間での相違が生まれるのだろうと感じることが出来た。
が、である。それらの事に気が付いたとしても、男はそれを気にしてはいけないのだ。正確には気にしていることを察されてはいけない。何故か。それは細かいことを気にする男を大多数の女は嫌うからだ。
そう言われても難しいな…と思う所ではあるだろうが焦る必要はない。
答えはシンプルで、「相手を妹姉だと思って接する」ことだ。女兄妹がいないなら幼馴染、学生の時のクラスの女、何でも良い。とりあえず恋愛感情の対象にしないということだ。
俺自身竜さんからこのアドバイスをしてもらうまでは変に気を使った行動ばかりしていた。
一緒に飯を食べたのにも関わらず女と心の距離感が全く縮まらない「これ飯行く意味あったか?」というストレスを味わっていた。
竜さんのアドバイスを基に俺の経験を加えた結果、女と知り合ったらまず恋愛感情は持たずに接して友人のように心の距離を縮める。
心の距離がある程度縮まったらそこで初めて恋愛感情を出せば良いのだ。具体的にどう出すかと言うと、次回会う約束をする時に、カップルでしか行かないような所へ行く提案をするのだ。
例えば水族館、動物園、テーマパークだ。これなら女にこの男は私に恋愛感情を持っていると明確に分からせることが出来る。
まさに今の俺とクミがその初期の方の段階で、恋愛感情を出さずに仲良くなろうとしている段階だ。女は警戒心の強い生き物なので男の下心に敏感に反応する。
その下心をどう処理するかは女が決めることだが、俺はイケメンでもなければ成功者でもない。なので最初クミに思わせたい事は「俺君は私と一緒にいる時楽しそうだな」だけで良い。
この友達のような期間を最初に設けることには男側にもメリットがある。「この女に恋愛感情を持つか持たないか」要はこの女はアリか無しかをこの間に決めるのだ。
因みに俺はクミと付き合いたいとは思っていないが今日でなくて良いからセックスはしたいと思っている。というかアプリで知り合う女とは基本的にセックスまでは狙っていきたいところだ。
こんな事をぼんやりと頭で考えていると料理が一品ずつ運ばれてきた。さあ、クミとの食事を楽しんでやろう。




