赦されたまえ、使い魔ズ!
低い声の主は、落ち着いた足取りでボクたちの眼前に立った。
月明かりで薄っすらと見える髭を纏った顔立ち。真っ直ぐで影のない凛とした瞳。パパの優しく暖かな眼差しとは違った、冷淡でありながらもどこか芯のある眼差し。
そんな瞳を縁取る目元の形はパパと同じ面影を持っていて、髭に覆われた口元にもどこかパパと似たような気配がある。
月明かりの下であるから尚更、パパのように見えたのかもしれない。
とにかく叔父さんは、ボクのことをじっと見据えた。そして、ほんの少し目を細めた。その眼差しは真っ直ぐで、パパの持っていた温かさをほんの少しだけボクに感じさせた。
「私は、今からでも遅くはないと思うが」
ヴィクトルは言った。その目がアタシを見つめているのか、サロモンを見つめているのかさえ分からない。冷たく鋭い目つきはアタシの魂を射抜くようなのに、どこかその奥に温かな熱を感じる。
どちらにしたって悪魔であるアタシの魂からしてみれば、不愉快で気色の悪い感覚でしかないんだけれど。
アタシはこんな男と話をしたくはないし、苦しめられた分のお返しをしてやりたい。是非ともぶち殺してボコボコにしてやりたい。魂を真っ二つに割いた上で、半分は思い切り食らって半分は地獄に捨てるくらいのことはしてやらなくては気が済みそうにない。
そう思って身構えようとしたのに、サロモンが動こうとしたアタシの身体を止めた。
ちょっと、まさかまたアタシを祓おうって言うんじゃないわよね?
いや、違う。……叔父さんは、今はボクたちに危害を与える気はないんじゃないか?ドロースを封じ込めることもしていないし、殺意も感じない。下手に敵意を向ける方が不利なんじゃ……。
はあ?何甘ったれたこと言ってんのよ、先手必勝って知ってる?先を越されたら負け、先を越せば勝ちなのよ。
どうせこの男がすることなんてアンタをそうやって絆して大っきらいな悪魔であるアタシをぶち殺そうって程度でしょ?隙を見せたら漬け込まれるわよ、今のうちに……!
「先程はすまなかった」
「……は?」
祓魔師の口から出た言葉は、アタシにとってあまりにも衝撃的だった。おかげですっごく間抜けな声さえ出た。
すまなかった?先程は?それってアタシに言ってんの?いやサロモンに?どっちにしてもこの男のキャラが掴めない。アタシはあからさまに眉を示し、どういう意味よと表情で問い掛けた。
「サロモン、君は私を誤解しているかもしれない。悪魔を祓うためなら手段を選ばない男と思われたかもしれないが、私は君のことを信じているんだ。死んだらそれは当然の罰だと語ったが……私は、君があの試練を乗り越えられると信じていた」
やっぱりアタシに対する謝罪ではなかったらしい。むしろ、サロモンに対する弁解のようだ。アタシは残念なような呆れたような気分になりながら溜息を吐き出した。




