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お慈悲をください、悪魔さま!  作者: 真坂凜子
郷愁と死の狭間で
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悪趣味だよね、この悪魔!

 マーガレットが冷たくあしらったアルフは、少し呆然として黙りこくってからその歪んだ顔をさらに歪めた。暗いのも相まってあまり良く見えないけれど、眉をひそめているみたいだ。

 マーガレットはあくまで冷淡に彼を見ている。


「怨霊になってるみたいだけれど、どういうわけでここに来たのかしら」


彼女は淡々と問いかけた。アルフはマーガレットのことを見つめている。


「お前の幸せは、俺の幸せだった」


震える声がそう紡ぐ。けれど質問の答えになっていない。マーガレットはその言葉に怪訝そうな表情を浮かべた。


「そうだったかもしれないわね」


マーガレットは器用にはぐらかす。しかしアルフが先程のマーガレットの問いかけに答えるような素振りはない。そして代わりに、マーガレットのことを鋭く睨みつけた。

 ひやりとしたような、そして同時に熱いような気配が僕の肌を撫でる。これは明らかにアルフが醸し出せるような空気じゃない。いくらマーガレットへの執着が強かったからと言って、彼は所詮下級の怨霊だ。こんな強大な魔力を操れるわけがない。


「それなら俺の幸せもお前の幸せだ!俺の不幸はお前の不幸だ!それなのに、お前は、地獄についてきてくれなかった……!」


 マーガレットはその言葉を鼻で笑った。少し前に生まれたばかりの小悪魔とは思えない、冷たく随分と板についた笑いだった。


「そんなことは言っていないわ。私の幸せはあなたの幸せ、それだけ。あなたの幸せが私の幸せなわけじゃないし、あなたの不幸が私の幸せでさえあり得るのよ」


 僕はその言葉を耳に流しながら、アルフの気配に神経を研ぎ澄ました。アルフの怒りと共に強まるこの魔力は、きっとマディスのものだろう。

 マディスが、アルフを召喚したのだろうか?僕たちの足取りがもう掴まれたということだろうか?それにしたってあまりに早過ぎるし、僕のかつての契約者をわざわざ呼び出すなんてどんな嫌がらせだろうか。

 そもそも数多いる怨霊の中から、マディスが僕の特定の契約者を、それも僕にそこそこの恨みがあるであろうアルフを引き出してくるなんて英断すぎる。


「それなら、今からでも!お前も一緒に地獄へ来るんだ、二人でいれば俺は、幸せだから……」


 マーガレットはその言葉を聞いて、はっとしたように目を丸くした。それから眉を下げ、まるで愛おしいものでも見るようにアルフを見つめた。

 ゆっくりと彼に歩み寄った彼女は、彼の両頬にそっと手を触れさせる。かつて僕が二人の日々を眺めていたときと同じように、甘く柔らかく愛情のこもった眼差しが交わされていた。


「アルフ……」


 そこで僕は気がついた。ここにいることがもしマディスにバレているのだとしたら、サロモンを残してくるのはかなりまずいのではないか。敵はマディス一人じゃない。ヴィクトルが彼を惑わしに来る可能性もありうる。

 アルフに関しては、きっとマーガレットがどうにかしてくれるだろう。そう思うと僕は咄嗟にサロモンのいる方へと足を向けた。


「あなた、ほんと気持ち悪いのよ」


 サロモンの元へ駆ける背後に、マーガレットのそんな冷たい声を聞きながら。

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