見定めようか、この悪魔!
僕がサロモンとドロースの元に戻ってみると、そこには案の定ヴィクトルがいた。また僕のサロモンのことを唆しているのだろうか。
やはりあの男は許せない。しっかり様子を窺って、然るべき瞬間にやってやろう。
僕はそう画策しながら、サロモンとドロースからも、ヴィクトルからも見えない死角に入ってその会話に耳を澄ました。
「信じてた?……でもボクは死にそうだった」
サロモンの声が聞こえる。怒りと不安と不信、僕にはそんな感情が混ざっているように聞こえた。もしかしたらサロモンのふりをしたドロースがそれらしい声を上げているだけかもしれない。
「しかし私は信じていたし、祈っていた。悪魔と契約した君に味方するのも信徒としてよろしくはないだろうが、それでも君がこちらに戻ってくることを主に願いながらあの儀式をしていた」
淡々としたリズムで、しかし堂々とした音で、祓魔師は語った。どうしてだろうか、嘘をついているようには聞こえない。聖職者や天使というのは基本的に嘘をつくのさえ下手くそな生き物だし、異端者を庇うのも通常ならありえないことのうちに数えられる。
この男には、本当にサロモンを殺す気が無かったのだろうか。
「願ったところで死んだら元も子もないわよ。そもそもアンタ、サロモンの何なの?聞くところ別に育ての親ってわけでもなさそうじゃない。何に執着してるのか分からないから気持ち悪い」
堪えきれなくなったのだろう。ドロースがサロモンの口でそう語った。いかにも不機嫌そうな口ぶりを聞くだけで、彼女の作る表情の動きさえ簡単に想像できる。
しかし、今はお話をしているだけとはいえ相手は祓魔師だ。下手なことを言うと本当に祓われてしまいかねない。怒っているのは分かるけど、今は口を慎んでいるべきなんじゃないか。そんなことを思いながら僕は祓魔師の動きに警戒した。
「確かにその通りだ、悪魔。私はサロモンの叔父でしかない。兄……レオナールとは彼が新教に寝返ってから袂を分かっていたし、サロモンと直接会うのも先日が初めてだった。
しかし私も恩知らずではない。縁を切ってからも手紙を送り続けた兄に、報いようという気持ちはある。私は兄に何もしなかった。手紙が来なくなってから、フランスに行ってレオナール夫妻の死を知ってから……残されただろうサロモンのことが無性に気がかりだった。兄に何もできなかった分、君を守ってあげたいというのはただの利己かもしれないが……役に立てるなら、頼ってほしい」
冷淡だった声に色がついたような気がした。この男は、嘘などついていないのかもしれない。心の底からサロモンを心配して守ろうとしているのだろう。ただそこに信心が加わって奇妙な形に歪んでしまっているだけといったところか。
ほんの少しだけ、僕はこの男に対する怒りを改めた。




