彼女を返せ、この悪魔!
マーガレットが欲しいと話す彼に、随分な怨霊になったものだと思案する。裏切られてなお、死んでなおマーガレットに固執しているのか。ドン引きレベルの愛情だ。いや、これは愛情と呼べる代物なのかな。
しかし、死んだ瞬間の姿を反映しているらしい姿は冥界から連れ戻されたそれのように見える。一体誰がこんなことを?
その答えを出そうと感覚を研ぎ澄ましてみると、この怨霊から感じられる気配は重たく深い味わいを持って僕の肌を撫でる。
アルフ自身の持つ怨念、怨霊特有の嫌な気配、そして彼のことをボコボコにした魔女たちの魔力の残り香。その奥に感じられるごくごく薄い異質な気配は――
「お兄様、いつまで話してらっしゃるんです?」
もう少しでその気配の正体を掴むことができそうだったのに、痺れを切らしたらしいマーガレットが声を掛けてきた。他人に見せる手前だろうか、僕の作った例の兄妹という設定をまだ尊重してくれているらしい。もしかして彼女もそこまで嫌じゃなかったのかな。
しかし、僕が彼女の言葉に答えるよりも先にその悪霊が口を開いた。
「マーガレット……ッああ、マーガレット!」
呻くような声がその喉から絞り出される。マーガレットはアルフに対して一瞬だけ愛想よく柔らかな視線を向けたが、すぐにその正体を察すると眉をゆったりと寄せた。
アルフはふらふらとした足取りでマーガレットに歩み寄り、大きく腕を開いた。抱き締めるつもりだったんだろう。しかしマーガレットは身を翻してアルフを避けた。
「気持ち悪いんだけど……何、どういうつもり?」
あからさまに引いた様子で口にする彼女に、なんだかちょっとだけアルフが不憫になる。
「ずっとお前に会いたかったんだ、お前のことを殺してやりたかったんだ……なぁ、一緒に地獄に帰ろう!永遠に一緒に……!」
マーガレットは興味なさげにその言葉を聞き流し、周りを見回してから一つ息を吐いた。かと思うとアルフの頬目掛けて思い切り、ぱしんっと乾いた音を立てて平手打ちを食らわせた。
血の通わない青白いアルフの肌は、彼女の手の跡さえも残さなかった。しかしその目は丸く見開かれた。
「あなたなんかと地獄に落ちる義理はないわ、そもそも私の家は地獄じゃない。……まだあなたに苦しめられたことは恨んでるし、最初からあなたなんてタイプじゃない。自惚れないで早く一人で帰ってくれる?そうしないと私、間違えてあなたのこと更にボコボコにしちゃいそうだから」
そう冷たく言い放った彼女に、アルフは呆然としていた。




