久しぶりだな、この悪魔!
そんなこんなでおしゃべりをして、仮眠を取ってを繰り返しているうち、僕たちは港に着いた。その頃にはすっかり夜も更けていた。
突然だけれど、悪魔と天使でいったら基本的に強いのは天使だ。
悪魔は天使を食うとその毒性にやられて死んでしまうし、天使は協力が上手い。一つの思想を共有している彼らは一つの目的のために戦えるから強力だ。それに信仰というのはどんな生物にとっても凶器のようなもの。心の底から神を信じている天使は、限界値を超えてまで必死に戦うから強い。
逆に天使は悪魔を穢いものと軽蔑しているから食わないだけで、食べることはできる。それに悪魔は基本的に問題児が多いし思想がバラバラな分協力ができない。強い天使を前に色んな悪魔が戦って一網打尽にされた歴史はいくつかある。それなのに学ばないところがあるから尚更良くない。やる気を無くせばすぐに逃げる連中も多いし、普通に戦えば天使にボコボコにされるのは目に見えている。
しかし夜は違う。
神の恵む陽の光が天使たちの上に注がれなくなるのだ。代わりに人間の下心や欲が夜の闇の中でひそひそと動き始める。特に夜、そしてその繁華街、更にその路地裏なんかにおいては悪魔の力が強くなる。
つまり、この夜の間はマディスと比べたら僕たちの方が有利だ。今追い付かれたらある程度の対処はできるかもしれない。
ただ、昼間にマディスとの真っ向勝負に走ったストルゲがまだ生き延びているのかどうかが少し心配だけど……。
僕たちは馬車を降り、料金を支払った。それから船を探しに向かった。
「船は夜には出られないかもしれないわね」
マーガレットが冷静に口にする。たしかに、夜の出港は危険だから朝までは待たされるかもしれない。実際港から出ていく船はないし、全ての船が船着き場でぼんやりしている。
「一応確認してこよう」
僕はそう告げてから船着き場に視線をやり、暗がりの中に佇む男の影に歩み寄った。
「朝まで船は出ませんか」
そう問いかけてからふと、何だか嫌な気配がした。色んな気配が混じった嫌な気配だ。
「いやぁ、出せないことはないな」
その声に僕ははっとした。もしかしてと思った矢先、その男はゆっくりと顔を上げた。殴りつけられ、焼かれ、ずたずたになった顔。しかしそこに残る面影は、かつて僕が見捨てた男のものだった。
「マーガレットを差し出すんなら、黙って通してやるよ」
そう言った男の歯が歪んだ口元から覗く。
間違いなく彼は、僕のかつての契約者――アルフ・サンダースだった。




