うざったいわね、この悪魔!
サロモンは納得したかのように首を縦に振った。しかし、その顔はやはり判然としないような表情を浮かべている。
多分頷いたのがドロースで、表情はサロモンのそれだろう。やっぱりこの二人が同じ体に魂を収めているというのは奇怪な感じがする。まあ、その違和感が面白いんだけど。
「それで、堕天したあんたを連れ戻すためにあの女がやたらしつこいってわけね」
声変わりを始めたばかりの男の子の声が、いかにも女性のような口ぶりをもってそう口にする。
「そう。生まれた順番もストルゲ、僕、マディスだったんだ。大体二百歳ずつの差はあったけど、本当に仲良しだったんだよ。一番年下のメイは元々真面目なたちだったんだけど、それに加えて少し甘えん坊の気質があったからね……。僕たちに戻ってきて欲しがる気持ちは理解できるけど、少し過剰なところはあるかもしれない」
マーガレットが眉を寄せて馬車の外に視線をやった。そのまま口を開いて、彼女は小さく呟いた。
「随分はた迷惑な妹さんね」
妹、か。マディスをはた迷惑と言われるのに多少突っかかるような感覚こそあれど、その妹という表現は僕の胸にやけにしっくりと刺さった。
マディスが妹なら、ストルゲは兄だろうか。元々確かに彼は面倒見のいい天使だった。悪魔に堕ちてから露骨に悪意を持った男になったけれど、たしかに頼れる存在ではある。
二人の兄妹のことを思って、何だか僕は胸が温かくなるような心地がした。昔のように一生懸命に仕事をして、それから楽しくおしゃべりをするような仲に戻れたらいいのにと、ぼんやり思ってしまう。
「じゃあ……メイさんは、なんでボクの叔父さんと結託してボクを殺そうとしたんだ……?」
サロモンが今度は不安げな声とともに述べた。
そう、今はマディスとは同じ仕事をできるわけでもなければ仲良くお喋りできる状況でもない。
僕の大事なサロモンとドロースを傷つけたことに関しては、正直無条件に許してあげられない。慈悲の悪魔ではあるけれど、あいにく慈悲もタダじゃない。特にサロモンたちに関しては殊更そうだ。
それにストルゲもマディスとはあまり仲良くしてあげられないような態度をとっていたし、関係の修復の可能性は薄いかもしれない。
少なくともあの祓魔師を殺させてもらうまでは許すことなんてできない気がする。妹のような間柄のマディスに免じたとしても、最低限祓魔師の魂の一つくらいは美味しく頂かせてもらおう。そう決めながらも、僕はサロモンに答えた。
「それは分からない。僕の目に映る限りでは、マディスとヴィクトルは何らかの理由で契約を交わしたんだろう。それでヴィクトルがたまたま出会ったマーガレットを追いかけているうちにサロモンと出会い、狂信的なところのある彼は悪魔に憑かれたサロモンを許せなくなって殺そうとした。それを追いかけて来た僕とマディスがたまたまかち合って、色んな利害が一致して大変なことに……ってところかな」
「何よそれ、アタシそんなの考えきれないんだけど!」
サロモンの顔をしたドロースが喚くのに、僕は苦笑いを返してみせた。




