思い出話だ、この悪魔!
僕とサロモンが隣に座り、サロモンの膝の上にはモナークが丸くなっている。随分懐かれているようだ。僕の方には来てくれないのがなんだか切ない。とにかくそんな僕たちの目の前にはマーガレットが静かに座っている。
僕とサロモンが並んで座っているおかげで窮屈になった席の向かいで、マーガレットは澄ました顔をしながら目を閉じていた。しかしそれから少しして溜息を吐くと、ゆっくりと視線を上げて僕を見やった。
「あの天使も、助太刀に来た悪魔のことも……理解できないんだけど、どういうことだか説明してくれる?」
マーガレットのその問いかけに合わせ、サロモンもマーガレットに一度向けた視線を僕に向けた。
「そうだ、なんでエレオスのことをメイさんが……?」
確かに三人にはこのことについてしっかり説明をしておかなくてはいけない。慌ただしかったから何も説明できていないし、それでは二人も納得できないだろう。
こんな昔話をわざわざ好んでするようなたちではないから少し不思議な気分だけど、僕はどこから話すべきか思案しながら口を開いた。
「僕は昔、天使だったんだよ」
この話をするのは初めてだから、きっとサロモンもドロースもマーガレットも驚くはず。そう思いながら僕はその様子を伺った。
マーガレットは驚いた顔だ。その表情に僕は満足した。
しかし、サロモンはかなりけろっとした顔をしている。あれ、こんなはずじゃなかったんだけど。僕は半ばきょとんとしながらサロモンの顔を見つめた。
「そんなのストルゲから聞いたわよ」
サロモンの声で答えたのはドロースだったらしい。
それにしても、ストルゲに先に話を聞いていたのか。してやられた。僕の言葉で驚く様子が見たかったのに!
しかし、マーガレットは違う。
「嘘、こんなのが天使……?世も末ね……。ああ、だから慈悲の悪魔とかふざけた名前で……」
何だかすごく失礼なことを言われているような気がする。こればかりは多分気のせいじゃないけど、僕は懐の深い悪魔だ。元天使の誇りにかけてここは寛容に見過ごしてあげることにしよう。
「とにかく、メイさんとの関係性について教えてよ」
サロモンは僕にそう迫った。いけない、ついつい話が逸れてしまうところだった。僕は小さく頷いて説明をし始めた。
「ルーグと、メイ……愛着の天使ストルゲ、信心の天使マディスと慈悲の天使であった僕は、かつての同僚だった。一緒に人間にお告げを与えたり、罰を与えたりするような仕事をしてたんだ。と言っても同じ主に作られたわけだから、兄妹みたいなものでね」
僕は懐かしい気分になって目を細めた。
「でも、人間は時々生意気で、愚かで、神のお告げなんて聞かずに身を滅ぼしたりする。せっかく優しくしているのに、裏切られることも多かった。だからストルゲはだんだん嫌気が差してきたんだ。そういうわけで、僕たち三人の中で最初に堕天したのはストルゲだった。
僕は反対に、厳しい主の規律に沿うことのできない人々に罰を与えるのが嫌になり始めた。同性愛、相手が悪い場合の復讐、抑えきれない気持ち……。神が罪と呼ぶものも、赦されたっていいだろう。だから僕も、少し前にストルゲのように堕天したんだ」
馬車の中には馬の足音だけがパカパカと響いていた。




