遠くを目指して、この悪魔!
僕がマーガレットとサロモンの元に合流した頃、表の方から大きな音がした。ついでにどこか焦げ臭いような匂いも香ってくる。きっとストルゲの得意な炎の魔法によるものだろう。なかなか派手な戦いが始まったようだ。
引っ越すとはいえ、それなりにお世話になった城だ。ストルゲもマディスも自分の目的に一直線になるところがあるから、この城なんて躊躇なくボコボコにしてしまいかねない。少し惜しいところはあるけれど、二人とも僕の制止なんて聞きはしないだろう。何より今はそれどころじゃないし。
「エレオス、今のは一体……」
サロモンが困惑がちに尋ねてくる。しかし今は優しく丁寧な説明をしている場合でもないし、僕は速歩きで二人を追い抜き、先導し始めながら説明をした。
「ストルゲが来てくれたんだ、どういう魂胆なのかは分からないけど……。とにかく今から馬車に乗って海の方まで逃げる。なるべくマディスたちから距離を取りたいんだ」
マーガレットとサロモンが僕の速歩きについてくるためにわずかに走り気味な足取りになりながら足音を響かせる。一生懸命ついてきてくれるのがなんだか可愛らしい。普段なら歩幅を合わせてあげられるんだけど、今はそうもいかないのがなんだか申し訳ない。
「転移魔法とか使わないわけ?」
マーガレットが怪訝そうに問いかけてくる。そういえば二人には説明をしていなかった。何も知らなかったら無駄に歩かされているような気になっちゃうよね。僕は密かに反省しながら説明した。
「マディスも祓魔師のヴィクトルも魔力への反応は鋭いはずだから、下手に魔法を使うと足取りが追われやすくなっちゃうんだ。だからこれから距離を取るまではしばらく魔法は無し。マーガレットもそういうことでよろしくね」
そう告げるとマーガレットが小さく呟くのが聞こえた。
「だから私追いかけ回されてたのね……」
マーガレットは魔法を使ってあちこちに逃げていたということだろうか。それなら追いかけられてしまっても仕方はあるまい。ヴィクトルが追いついてくるたびに魔法で逃げるのを繰り返して、それにうんざりした末に助けてもらうために僕のことを追いかけていたのだろう。
言い方を変えてしまえば、サロモンがこんな目に遭っているのは彼女のせいとも言える。僕の元使い魔たるマーガレットがサロモンの叔父であるヴィクトルにたまたま目をつけられ、そしてそのヴィクトルがサロモンの初恋の相手である天使と結託していて……。結局、その全員の関係が絡み合い、ここで縺れ落ちてしまったわけだ。因果とはつくづく奇妙なものだ。
僕たちは街に出ると、適当な馬車にお金を渡して三人揃って乗り込んだ。ガタガタと不規則な揺れを窮屈な馬車の中で味わい始めた。




