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お慈悲をください、悪魔さま!  作者: 真坂凜子
郷愁と死の狭間で
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とっとと逃げろ、この悪魔!

 "ストルゲのように"という言葉に、サロモンは少し怪訝そうな視線をこちらに向けた。しかしサロモンも状況は分かっているらしい。すぐにその視線を前方に向け、裏口へと足を進めた。

 僕もそれに続こうとした矢先、マディスに答える声がした。


「陰口には感心しねえな、メイ」


 鼻で笑い嘲るようなトーン、どこかシニカルな言葉選び。そして何より、執着の悪魔特有の魔力の気配。紛れもなく、扉を挟んだそこにいたのはストルゲだった。でも、何故?


「ストルゲ……」


 マディスの声が驚きに沈む。僕は足を止めた。同じように驚いたらしいサロモンとそれに続くマーガレットも足を止めたが、僕は二人に先に行くよう手で促した。


「なんで、って顔してんな。俺の今の契約者、この近くの街の娼婦なんだわ。なかなか筋のいいヤツなんだぜ?昔の男への執着は俺も舌を巻くレベルだ!……ああ、もちろんメイの堕天使への執着には敵わないけどなぁ」


 相変わらず皮肉ったらしいことを言って扉越しに笑っている声が聞こえる。彼も相変わらずだ。同じ元天使とは思えない徳の無さ。悪魔らしいという点では優れているのかもしれないけど。


「そんでちょっとエレオスのお家に挨拶しに来てみたら懐かしいお友達がいたもんだから感動したんだよ。なのにメイときたら、俺のことをいかにもクズ野郎みたいに呼んでエルを侮辱してんだ……俺たちの友情ってそんなもんだったのか?あー全く泣けるよ、涙が止まらないな!」


 ストルゲは僕の家に挨拶に来たなんて、そんな理由でこんな好タイミングに現れる男だろうか。もっと何か打算があるような気もする。

 それに、涙が止まらないと言う割に声は胡散臭い。いかにも泣いているふりをしているような声一つで、扉の向こうの光景が思い浮かぶ。嘘泣きをかますストルゲと、いかにもイライラしているマディスと、ついでにそこに立ち尽くすヴィクトル。

 ストルゲは悪魔として多少僕よりは先輩だ。しかし彼も有力な祓魔師と天使を相手にしてはあまり太刀打ちも出来ないのではないか。僕の助太刀が必要かもしれないと思って、僕は扉に歩み寄った。


「何が言いたいの、ストルゲ」


 マディスの不機嫌そうな声が低く聞こえる。この状況でマディスをキレさせるのは普通に考えてちっとも良くないのにと僕は内心はらはらした。


「おっと、単刀直入に言わないと分かんないか?じゃあ遠慮なく……俺はお前が嫌いなんだよ、マディス」


僕は尚更困惑しながら眉を寄せ、扉の外に耳を澄ませた。


「俺が堕天したときからお前しつこかったんだよな。"私のもとに戻って来て"とか"信じてる"とか、重いんだよ。それで俺がちょっと正当防衛しただけで今度は下賤な悪魔扱いし始めたもんな、それ以降も変な刺客とか送りつけてくるからこちとら安心して寝れねえの。

どうせエレオスにも同じようなことやってんだろ?いい加減そういうのうぜぇからやめろって言いに来た」


平然として語る声に背筋が冷える。今マディスが怒るのは色々まずい。僕も出ていったほうがいいのかとすごく悩んだ。


「ま、エレオスがいるとちょっと邪魔だからな。アイツ無駄に優しいからどうせ慈悲かけちまうだろ?今はどっか遠くに行っときゃいんだよ、アイツ。ここは俺たち二人で決着をつけようぜ。……いや、俺の契約者も呼べば二対ニで丁度良くなるな」


 僕は邪魔だと遠回しに言われている気がする。もしかしてストルゲは僕たちのために足止めをしてくれているのだろうか。だとしてもその理由もよく分からない。

 彼の思惑についても気になるところだが、今は彼の足止めの恩恵に預かった方が良さそうだ。


「ええ、いいわ。私を裏切ったこと、改めてきつく後悔させてあげる」


 マディスのガチギレトーンは久々に聞いたかもしれない。低く震え気味な声に少しストルゲを心配しながらも、僕は裏口へと向かった。

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