捨ててしまえ、この悪魔!
僕はサロモンから渡されるものを受け取って僕の鞄に収めていく。マーガレットは自分の住処ではないからとばかりに素知らぬ顔で自分の爪を眺めたり髪を整えたりしている。まぁ、実際彼女に引っ越しは関係ないから構わないんだけど。
そのうちにサロモンが、てきぱきと僕にものを渡していたはずの手を止めた。渡されるものを溢れかえらないようにぎちぎちと鞄に詰め込み続けていた僕が彼を見やると、彼は何やら手の中を見つめている。
その小さい手の隙間から、銀色の光が艷やかに零れた。きっとパパからもらった十字架だろう。そのくらいのサイズなら彼も持てるだろうと思うのだが、僕に預けたいのだろうか。そう思いながら僕は一応手を差し出してみせた。
「いや。……違うんだ」
サロモンは僕の気遣いに首を横に振った。僕はどういう意味だか理解ができなくて首を傾けた。彼は僕に一度視線をやってから、十字架をぎゅっと握りしめた。
「……捨てようかな、って」
彼はぽつりと呟く。僕は彼を見つめた。捨てる、か。パパから貰った十字架を捨てるのか。それはつまり、僕に全面的な依存をすると決めたという解釈で相違ないんだろうか。いや、正確に言うならまだそれについて悩んでいるといったところなんだろうけど。
僕からしてみれば、両親のことを愛していたはずの彼のを捨てた両親も、仕事に熱中するあまり彼を殺しさえしようとする叔父も、彼には有害でしかない。そんな家族の大事にしていた信仰なんて捨ててしまえばいいと思う。そうすれば彼が少しは解放されるような気がしてしまうのだ。
「いい決断だと思うよ」
僕はそう告げた。けれど彼も悩んでいるのだろう。僕からしてみたらまだまだこんなに幼い子供だし、家族の形見を捨てるのも、今まで信じ続けてきた何かをばっさりと切り捨てるのも怖いことのはずだ。
「君がそれを捨てるんなら、僕は責任を持って君のことを守り続けるつもりだ。親が、家族がいなくても、信条がなくても、君は僕にとって大切なサロモンだからね」
そう付け加えても、サロモンは聞こえていないかのように十字架を見据えている。僕はそろそろ時間も足りないかもしれないと思案し、鞄をばたんと閉じた。
「取り敢えずその十字架は君が持ってるといい、いつでも捨てることはできるはずだから」
僕がそう告げると、彼はようやく一度頷いた。
それから彼は、自分の服のポケットにその十字架をしまった。そして、ポケットの中に突っ込んだままの手で十字架を握りしめ続けていたようだった。




