いざ振り返ろう、使い魔ズ!
昨日、ようやく身につけた転移魔法でかつての家に訪ねたのは時運に欠けていたのかもしれない。
あそこには、かつてあの隠れ家じみた教会に通ってくれていた人々がそのままにしていた風景があった。ボクはパパとママの葬式のあとから行方不明になっていたわけだし、いつか帰ってきたらと思ってのことだろう。
埃を被った置き手紙には、名前の覚えがある信者のおばさんが僕への温かい言葉をしたためていた。帰ってきたことへの祝福、パパとママを亡くしたことへの同情、そしていつでも自分の家に遊びに来てくれればいいという優しい誘い。それにボクは涙した。
知ってるわよ、アンタの情緒のせいでアタシまで顔に涙と鼻水ダラッダラの感覚味わったんだから。もっとひどいのはその後でしょ。
奥まった礼拝堂でサロモンが泣いてるときに、突然誰かが来る気配がした。アタシたちは泥棒と思って身構えた。アタシも飛びかかる気満々でいたのに、アンタがアタシの足を止めたのよ。もう……一発蹴っときゃよかった!
とにかく、それでその相手がサロモンの叔父の……ヴィクトル・ガブリエル・ブランだってことが分かったのよね。
そう。でもボクは叔父さんとの面識は無かった。直接会ったのはあの時が初めてだ。
叔父さんは敬虔なカトリックの信者として祓魔師をしている人だとパパから聞いていた。どうやらプロテスタントに信仰を変えたパパのことは嫌いだったらしく、絶縁していたそうだ。それでもパパは度々オーストリアを拠点に活動している叔父さんに手紙を書いていたようだし、叔父さんの写真を見せてよく彼のことを語ってくれた。素晴らしい男だ、自慢の弟なんだと。
とにかくそのヴィクトル叔父さんは、パパとママとの決別を決めかねているボクに迫った。悪魔を祓えば赦される、今ならまだ間に合う、これからゆっくり生きて罪を償えばいい、その他諸々の温かい言葉で。
ボクはそれに乗った。パパとママに対する後ろめたい気持ちを拭えるなら、そして自由になれるのならと。
全くはた迷惑なことしてくれたわよね。お陰でアタシあの後気持ち悪いくらい真っ白で耳鳴りしかしない空間に閉じ込められたようなもんよ。アンタのせいで死にかけたんだから勘弁してほしいわ。
それを言ったらお前もボクのこと前に殺しかけただろ!忘れたとは言わせないぞ、そもそもそのせいでボクたちは一心同体になってるんだからな?
しかし、ヴィクトル叔父さんはメイさんと手を組んでいた。そしてボクのことを殺そうとしていた。
あの二人がいつから協力関係にあったのかは分からないが、ボクの叔父と協力関係になるなんていうのはメイさんがボクのためにしたことに違いない。最初からボクを狙って、ボクを殺すつもりでいたのだろう。
初恋の相手に殺されかけるなんて洒落にもならない。それも残った唯一の親族と手を組んで殺しにかかってくるなんてかなりショックだ。
アンタほんと人を見る目ないわよね、アタシの魂食わされて正解だったんじゃない?いや、それでもアタシの意見聞かないから意味ないか。せめてアタシの意見聞くようになったらもう少し人生得できると思うんだけど。
なるほど、これが悪魔の囁きか。あいにくパパから悪魔の囁きは無視するように言われてるんで謹んでお断りするよ。
はぁムカつく!口振りがエレオスに似てきたじゃないの、小生意気なガキ!
そう、とにかくそこで助けてくれたのは、エレオスだった。朦朧とする意識の中でどうにか見えた彼は、ボクのために死にそうになっていたようだった。
死にそうなボクのために命さえ擲つことができるエレオスのこと、ボクは少し見直したんだよ。
彼の使い魔になってるとか、所有されてるとかじゃなくて……なんていうのか、ボクは彼に守られているっていうのに安心したんだ。無理にドロースと離れるのもなんだか寂しいし、パパとママと良心の影を追い続けて、裏切られ続けて生きるくらいならこのままでいてもいいんじゃないかな、って。
サロモンはアタシからしてみたらまだまだ子供だ。人間の尺度で言ってもそうだろう。ずっと堅苦しい信条や親の影に囚われるのにいい加減疲れたんだろう。アタシにはそんなもの無いけど、この自由を縛られるのはキツいだろうと想像はつく。
アンタもアンタなりに頑張ったんじゃないの?疲れたんならそろそろ止り木を見つけたって誰も咎めやしないわ。……正確に言うなら、アンタを咎めてくる誰かからアタシやエレオスが守ってあげるんだろうけど。
偉そうに言うけど、そもそもパパとママを殺したのはお前だぞ。
とはいえ、それを責めてもパパとママは蘇らないし、ボクのことを捨てたのだ。そしてボクには、受け入れてくれる人が……いや、悪魔がいる。本当に、パパやママとの決別の時が来たのかもしれない。
ボクは、首に掛けて服の中にしまっていた十字架を取り出して握りしめた。




