関係決裂、使い魔ズ!
――渇いたような苦しみ、何も見えない白、反吐が出そうなほど完璧な調和の気配。痛みが心臓の奥に燻り、朦朧とする意識の中で必死に生存を貫く。
サロモンが実家に帰りたいとか言い出したのに頷いたのが間違いだった。きっぱり嫌だと言っておけばよかった。
何のまぐれだか知らないけど、祓魔師とかいうクソジジイに簡易的な封印魔法を掛けられたせいで何も分からない。アタシの身体だったらこの程度の魔法すぐに解いてとっとと逃げられたのに……!
サロモン、聞こえてるんでしょ?アタシの方からアンタの声は聞こえないし周りの状況も何もわからないけど、生きてるうちに言わせてもらうから。
アンタは本当に馬鹿で恩知らずだわ。アタシのこと祓おうなんて生意気なこと言って、平気でいられると思ってんの?
アンタが初めて好きな人に出会ったのは誰のおかげ?ソイツが危険だって何回も忠告してあげてたのは?わざわざ魔力も貸し出してアンタのわがままにいつも付き合ってやってんのは誰?ぜーんぶアタシだからね!?
たしかにアタシはアンタの両親を殺したわ。でも一番芸術的な方法で弔った。それに残ったアンタのお世話もしてやってんの!
アンタは十分アタシの恩を受けてると思うわよ?それなのに、こんなクソジジイにそそのかされてこうやってアタシを祓うなんて選択を……。アタシだけ祓われてアンタは自由なんて、世の中そんな美味い話あるわけないでしょ!?いい加減目ぇ覚ましなさい!
でももし本当にアタシのこと祓ったり殺したりしたら、お前が死んだ時に地獄に引き込むわ。それは重々に承知しときなさいよ!
「悪魔よ、黙りなさい。信心の天使の名の下に」
叔父さんがそう静かな声で呟くと、頭の中に響いていたドロースの声はぱたりと止んだ。
叔父さんにもさっき厳しく言い聞かせられたが、悪魔たちに恩なんてあるわけがない。ドロースはボクの面倒を見ていたわけがないし、都合のいいときに利用していただけだろう。エレオスはボクを飼って楽しんでいるだけで、ボクは彼のただの下僕だった。ストルゲも結局自分の利益を求めてボクを使ったに過ぎない。
ボクは叔父さんと同様、最初から神に仕えているべきだったのだ。思えば追い詰められた時にエレオスと契約してしまったことが間違いだった。
パパとママに言われた通りに、あの魔法使い同様にボクが愛に盲目になった通りに、今のボクは感情に飲まれ、欲に従順になってしまっている。最早悪魔に堕ちたようなものだ。生きている価値さえ無いかもしれないのに、それでも叔父さんは……主の下僕である彼はボクを迎えに来てくれた。
"主はまだお救いくださる"、"今からなら赦される"。叔父さんがそう教えてくれた。
「サロモン。改めて確認させてもらうが、明日……礼拝が終わったあとで祓魔の儀式を始める」
ボクは深く頷いた。神聖な空気でドロースを弱らせた礼拝の後、教会でそのまま儀式を始めるという算段だ。
これが済んだらボクは悪魔と決別できる。絶対にエレオスの元になんか帰るものかと、強く心に誓った。




