お久しぶりね、この悪魔!
全く厄介なことになったものだ。ドロースが殺されてしまうのは可哀想だし、とはいえここで姿を現して早速戦うなんていうのも少々野蛮だし無謀だ。取り敢えずドロースの安全を祈願しておいて、僕は相手の内情を探るのがベストだろう。
そう考えて、サロモンの魂に密かに魔法を掛けることを決めた。持ちうる限りの神聖な魔力と悪魔特有のそれを混ぜ合わせて掛けた、いわば錠前のようなそれだ。悪魔の魔力をもって鍵を掛けたところで、聖職者は野蛮にそれをぶち壊すだけ。逆に神聖な魔力を掛けておけば耐性が生まれるから、そう簡単には壊れない。僕程度の魔力があればおそらく短くても二日は持つだろう。
僕はぱちんと指を鳴らし、魔法を掛けた。気配を消す魔法のおかげで二人にそれが聞こえていないのを確認してから、取り敢えず地下室を出るべく階段を上った。
サロモンの家を出て、まず何をするべきかと思案する。あの聖職者のことを調べなくてはいけないといえどどうやって調べようか。
他の人間たちならちょっとあちこち飛び回ればすぐに情報を得ることはできる。だから一般人ならばまだしも、あいにくあの男は聖職者だ。調べごとをしようにも彼を雇っていた教会を行脚する必要が出てくるはずだ。そうすると少々厄介になる。
難儀だなあと思いながら溜息を漏らし、取り敢えず姿を消す魔法を解いて街を歩いていた。
その矢先、腕をぐっと掴まれる感触がする。それに驚いて目を丸くした直後、僕の身体は道の脇に引き寄せられた。随分力が強いけれど、僕を相手にカツアゲでもしようというんだろうか。面白い人間もいたものだなあと思いつつ、僕の腕を引き寄せた相手に視線をやる。
そこにいたのは華奢な女の子だった。透き通った白い肌、艶めく金髪。まるで人形のように整った顔立ちは完璧な被造物とでも形容できそうだ。
紛れもなく、マーガレットだった。アルフとの契約の際に僕が作ってあげた小悪魔。僕の支配下から逃れた素質溢れる小悪魔だけれど、なんでこんなところにいるんだろうか。
そんな僕の疑問をよそに彼女はその表情を切羽詰まったように顰め、僕の腕をぐっと握りしめる力を強めた。
「エレオス、助けてちょうだい」
彼女は必死な様子で僕たちの周りを見回している。まるで誰かに追いかけられているようにも、その追手から逃れようと必死になっているようにも見える。
僕はそんな言葉に懐疑心を抱くと、首を傾けてみせた。どうしてと聞こうとしたのに、彼女は僕にそれをさせなかった。それよりも先にそのわけを口走ったのだ。
「追われてるのよ、祓魔師に!ずっとあなたの気配を追いながら逃げてきたの、お願いだから守って!」
今までの強かな演技力はどこへやら、彼女は眉をひそめて慌てた様子でいる。対して僕は、その言葉になるほどと合点がいってしまった。同時に、なんて好都合なのだろうと思って少し微笑んだ。
彼女を前に一つ頷くと、嬉しそうな彼女を傍目にそのまま僕は人差し指を立ててみせた。
「代わりに君にも協力してもらうよ、マーガレット」




