過保護すぎだろ、この悪魔!
手早く支度を整え、かつてアルフとの三日間においてしたように透明になる魔法を自分に掛けた。とはいえドロースもサロモンも勘が働くから、アルフのときのように姿を消すだけでは通用しないだろう。とりあえず気配を消す魔法も重ねて掛けておいたから、二人は僕には気づかないはず。完璧に支度が整ったのを確認してから、僕は意気揚々とマントを翻した。
辿り着いたのは、石造りの一般的な平屋の前だった。日曜日を前に仕事に慌ただしく励む人々が溢れかえる通りでは、あまりに特徴の薄いただの平屋。
たしか彼のパパは牧師だったはずだが、あまり教会だと露骨には分からない。きっとこの国ではあまり新教徒は良い顔をされないためだろう。一般的な平屋の見た目をカモフラージュとして、新教徒たちを集めていたような密かな教会だったのかもしれない。
そんなことはさておき、僕は早速その家の中に忍び込んでみた。悪いことをしている気がして罪悪感が沸かないでもないが、それ以上にワクワクしてしまう。彼は一体どんな決別をするんだろう!
なんて呑気に思っていた矢先、ビリッと嫌な気配がした。電流が走るような、ほんの少しの刺激。
元々ここは秘められているとしても教会だったわけだし、多少聖なる空気的なものがあってもおかしくはない。とはいえこれは空気感というより、誰か聖なる気を持った誰かがいるような気がする。けれど天使ならもっと強い気配を持っているはずだし、一般の人間が持つにしては強すぎる。この感じからすると、とても弱い天使か、とても強い聖職者か。
僕の魔法も完全じゃない。それなりに感覚が鋭ければ僕が隠れていることに気付いてしまうかもしれないし、正直そうなると色々厄介だ。どちらかといったら前者の弱い天使である方が都合がいいなと思いつつ、サロモンの気配を辿って奥まった小さな部屋に着いた。
書斎であるようだが、動かされた本棚の下には地下へと続いているらしい小さな階段がある。その先からは嫌な気配とサロモン、ドロースの気配が一緒にする。血の匂いはしないから、危害を加えられているというわけではなさそうだけど。
とにかく僕は慎重に地下へ続く階段を降りた。
声が聞こえる。サロモンのものではなく、低く落ち着いた男性の声だ。穏やかに何か話す様子に耳を澄ましながら、僕は階段を下っていった。
その先には、小さな礼拝堂があった。そしてそこにサロモンがいた。その目の前には、綺麗に澄んだ茶色の目をした男性がいた。身長は僕と同じくらいだろうか。すらりとした体躯を大きな黒いローブが覆い隠している。首に掛かった十字架からはあからさまに神聖な雰囲気を滲ませている。数十年分の年季を帯びた顔立ちを、僅かな顎髭が彩る。どこか彼らの顔立ちには似たところがあるようにも見えた。
何にしても、僕の見る限りあの男は聖職者だ。それもあのローブと如何にも悪魔に対して刺々しい気配から見るに、祓魔師の類らしい。たちが悪いな。そう思いつつ静かに腕を組んだ矢先、その男の口が開いて訪れていた沈黙を破った。
「サロモン。……私は君の味方だ、それだけは肝に銘じておきなさい」
文脈は分からない。けれど僕はなんだかその言葉に、ひどく嫌な予感を察知した。




