ついてくるなよ、この悪魔!
彼に微笑み返しつつ、それなら僕も付き添ったほうが良いだろうかと思案する。
とはいえ彼は今やドロースと契約を果たした身。多少弱くても魔法が使えるわけだし、そのあたりの暴漢に襲われそうになったところで対応する程度の機転は利くはずだ。けれど天使や魔法使いの類に声を掛けられないとも限らないし、そうなったら勝ち目は一気に小さくなってしまう。
この前の一件はストルゲが彼らの側について一枚噛んでくれていたから助かったようなものだろうし、一人……いや、二人だけではきっとそういう相手から護身することは難しいだろう。
それに何より、僕が二人から離れたくない。僕が召喚に応じて二人から離れてしまったしまったばかりに、僕はサロモンの華々しい失恋を目にすることができなかった。きっと彼はとても可愛い顔をしてくれていたのだろうに、それを見逃したなんて大損でしかない。今回も彼ら二人を送り出して、可哀想なシーンを見られないで終わってしまったりしたらそれこそ僕が可哀想だ。
つまり、何が何でも付き添いをしたい。僕はそんな下心を持ちながらも、あくまでもそれを露骨に表すことはせずに口を開いた。
「君たちがサロモンの実家に行ってみるんなら、僕もついていくよ。是非、サロモンがけじめをつけるところを見せてほしいな」
そう穏やかに告げると、サロモンは少し複雑そうな顔をした。
まぁ、敬虔な両親との関係にけじめをつけるために悪魔と一緒に実家に帰るなんて色々変だ。この感じは残念だけど断られるかな。
「両親に執着していたら前に進めないから、謝罪と別れの挨拶をしたいだけなんだ。ボクは一人でパパとママに向き合いたい。正直ドロースも置いていきたいくらいだし、お前に来てほしくはない」
やはり彼は釣れない答えをした。僕が眉をさげるのに対し、サロモンの顔がいかにも嫌そうに眉をひそめた。
「アタシも別にアンタの両親とか興味ないわよ」
そう言って腕を組むのはドロースだろう。やはりサロモンの真面目そうな顔が不機嫌そうに歪んで女の子らしく喋る様子はなんだか面白い。
けれどあんまり笑うと二人から睨みつけられるし、まだまだか弱い二人といえども今となっては立派な魔法使いのようなものだ。下手に煽って敵対されては困るし、マーガレットの時のように自立されたりしたらたまらない。僕は苦笑いをするだけに留めておいた。
取り敢えず今のところは、彼の言う通り行かないと答えるのが正解だろう。
「じゃあ僕はここで留守番してることにするよ。転移魔法は使える?馬車が必要だったりするんなら用意するけど」
そう問い掛けると、サロモンは首を横に振った。
「練習してたから大丈夫だ。今は城の中ならもう好きなように魔法で移動できるようになってるし」
僕が暇を持て余して本を読みふけっている間に彼はそんなことをしていたのか。生真面目な様子がまた可愛らしい。それなのに親にも恋にも報われないんだから、全く可愛くて仕方のない子だ。そう思いながら僕は頷いた。
「分かった、気をつけて行ってきてね」
僕がそう告げると、彼は小さく頷いてから片手の人差し指を上げてくるっと回した。すると、彼の姿はぱっとその場から消えてしまった。
ああ、行っちゃったなぁ……なんて愁うつもりはもちろん更々ない。
僕は彼がその実家に辿り着いたらしいのを感知するや否や、気配を消して二人を尾行する支度を始めた。




