-ほんの些細な後日譚-
静まり返った夜の街。ボヤ騒ぎも一段落し、娼婦は静かに泣いていた。嗚咽を漏らして泣く彼女の頭には、かつての魔法使いと過ごした日々のことが思い出される。
彼が見せてくれた魔法の数々、彼が現れてからこんな仕事の中でもつらい気持ちを得ることが少なくなったこと、思い出す度に同時に彼の死に顔が頭を過る。こうして泣いていれば普段なら彼がやってきて、花の一輪でも器用に出してくれたのに。そうして、帽子のつばの下で静かに笑ってくれたはずなのに。
思い出に満たされた心がすぐにまた空虚になる悲しみを噛み締めながら、彼女は泣き止む様子を見せずにいた。
そんな彼女の元に、一人の男が降り立った。
茶色い短髪と暗い濃紺の瞳。何を反射するわけでもないのにぼんやりと光る耳飾りは、彼女の目には天使の輪のようにも見えた。整った唇を歪めてにたりと笑ったその男は、月明かりを背に地面にへたり込んだままの彼女を見下ろす。赤と黒の混じった大きな影に見下されて、彼女はまた頬に涙を伝わせた。どこかで会ったことがあるような既視感がある。けれどそれ以上に、こんな時に来てくれるなんてどこかあの人のようだ、と。
そして男は口を開いた。
「こんな夜中に一人で泣くなんて憐れなお嬢さんだな。愛する人を奪われた苦しみはさぞ大きいだろうよ」
訳知り顔でそう言った男は、屈んで娼婦と視線を合わせた。その顎を持ち上げて目を合わせると、いかにも人の良い笑みをにっこりと浮かべる。
「俺が助けてやってもいいぜ、もちろんお代は頂くが」
彼女は頬に大粒の涙を溢し続け、男のことを見つめた後で小さく頷いた。そんな彼女に、男は僅かににたりと悪い笑みを浮かべてからすぐにそれを取り繕った。
執着の悪魔は、新たな獲物を手にしたのだった。
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その頃、慈悲の悪魔は仕事を終え、可愛い使い魔たちが待つサン・ラ・ヌイト城へと帰ってきた。転移魔法で彼らの前に姿を表すだけではつまらない。ゆえにお土産をたくさん持ち、彼らに聞こえるようにわざわざ城の門を開けて我が家へ帰ろうとしていた。
そうして彼が城門を開けようとした矢先、足元に何か手紙のようなものが落ちているのに気がつく。土をかぶっているし、踏みつけられているようだ。慈悲の悪魔はそれを拾い、中身を確認した。
聞き覚えのある名前、こっぴどい拒絶の文章。使い魔に起きたことを察した彼は、お土産でたっぷり元気をだしてもらおうと決めた。
そして、彼は何気なく手紙を裏返した。そこにあった文章を読み、彼はわずかに眉をひそめた。これは少々厄介なことになるかもしれない。
それから手紙を丁寧に畳んでマントに入れ、何事も無かったかのように城の中へと入っていったのだった。




