一件落着、使い魔ズ!
とにかくアタシは人間の魂を平らげ、満足した。お腹が満たされたというよりも、喉の渇きが満たされたような……うーん、飲み物を飲んだときのそれじゃないんだけど、何だか欠けていたものをようやく手に入れたような気がした。
対してサロモンの方は初めての人間の魂もとい心臓にかなりキているらしい。相当気持ち悪がっているようだ。お陰で今のアタシたちは満足と同時に疲労が丸出しになっているし、自分でもよく分からない状態になっている。とりあえずアタシは満足なので万事オッケー。
「んじゃあ俺、そろそろ帰るわ。楽しかったぜ、ありがとな。エレオスによろしく」
ストルゲはそう言って指をぱちんと鳴らすと、そのまま夜の闇に溶け込んでいった。随分呆気ないお別れね、別に構いやしないけど。
ところでサロモン、アンタ生きてる?死んだんなら喜んでこの体乗っ取らせてもらいたいんだけど、大丈夫?
なわけあるか、ふざるな……!うぇ、未だに口の中ににちゃにちゃした肉片が残ってるし気持ち悪い……。
それがもしアタシに罪悪感を抱かせるための文句なら無駄だから諦めるほうが得策だと思うけど。そもそも契約承認したんだからこんくらい勘弁しなさいよ。こっちはいつでも魔力貸すのやめられるんだからね!
はぁ、契約なんかしなければよかった……。
ボクはエレオスの時と同じくらいそんな後悔をしながら、サン・ラ・ヌイト城に向かった。なんだかとても疲れた。口の中も気持ち悪いし未だに吐きそうだ。水が飲みたい。帰ったらすぐに井戸から組み上げよう。
そんなことを思いつつ辿り着いた城の門に、小さな手紙が置いてあった。屈んで拾い上げてみると、そこには『サロモン殿』と綺麗なフランス語で書いてある。
アタシはサロモンが拾い上げたその手紙を咄嗟に投げ捨てた。すごく嫌な感じがした。電流が走るような、痛くて熱い感覚。この感覚は、間違いない。この手紙の送り主はマディスとかいうあの女ね。
「……メイさん!?」
ドロースの思考にびっくりして変な声が出た。もうこの際ドロースが彼女の手紙を投げ捨てたことは追及しない。後でねちねち言ってやるつもりだが、今はとにかく彼女の手紙が読みたい。ボクにわざわざ手紙を書くなんて、一体何が?もしかしてラブレターだったりプロポーズだったりするんだろうか、とにかく読まなくちゃ……!
"サロモン・レオナール・ブラン殿
この度は私にご協力くださりありがとうございます。私は父なる神の命により人間界に派遣され、敬虔な男性の死因について調べていました。その際卑しい身分の娼婦と関わりかねていたところで、代わって彼女の調査をしてくださり大変助かりました。
ただし復讐と称し貴方が悪魔ドロースと契約し、悪魔ストルゲと手を組んで火事を起こした点に関しては擁護致しかねます。私が雨を降らせなかったらこの街は燃えきっていたであろうこと、加えて貴方のしたことは神の名の下に死後断罪されることをご承知おきください。
それと、率直に申し上げて貴方の好意には応えかねます。一に私は天使であり、二に貴方は悪魔の魂を食い、挙句に契約を交わした異端者です。火を放って人を殺した大罪人でもあります。そもそも復讐は私の仕事でしたから、貴方のしたことは立派な殺人、大罪です。貴方のような下賤な人間だからこそ下賤な娼婦と関われたのだと思いますが、私はもとよりあなたのことを軽蔑しております。勘違いはなさらないでください。
信心の天使 マディス"
サロモンは随分なショックを受けているらしい。だからアタシ何回も忠告したじゃないの、アンタとアイツは釣り合わないって。
メイさんのパパって……神?じゃあ、メイさんが復讐してあげようとしていた人って、ただの信心深いおじさん……?
け、軽蔑って……ボク、そんな……最初から……
頭の中ですらまともなことが言えなくなっているうえ、サロモンは身体の力を抜いてその場にへたり込んだ。ボロボロと涙と鼻水が出てくる。アタシはそれを鬱陶しく思って眉をひそめながら、その手紙を裏返してみた。するとその隅に、別のことが書いてあった。
"追伸:エル、私は今でもあなたの帰りを待っています。"
は?エルって誰よ、支離滅裂な女!
こんな手紙を女々しく持っていたらサロモンは泣き止まない。そう思うと立ち上がるのとともにアタシは手紙を地面に捨て、それを踏みつけてから城門を通って城へ帰った。




