楽しかったぜ、使い魔ズ!
ボクは、正直とても複雑な気分だった。
たしかにあの魔法使いはメイさんのパパを殺した恨むべき敵だし、リーゼだって卑しい娼婦だ。二人とも見下して当然の存在のはずだし、許す理由なんてどこにもない。それでも、何だか後味が悪いのだ。
愛する女を守るために炎の中に飛び込んだ魔法使いの背中がまた目に焼き付いている。涙に濡れながら醜い魔法使いの顔にキスをしたリーゼの姿も。彼らは本当に、殺すべき存在だったのだろうか。死んでしまえばいいと願うことが許されるような人だったのだろうか。
そう思ってもやもやしているうちに、ストルゲが腕を組んで口を開いた。
「まぁ、本当に面白いもんを見せてもらったよ。ハハ……最高だよな、アイツ。わざわざ悪魔と契約するほど娼婦なんかを愛してたんだぜ?で、女一人のために悪魔と契約したお前さんに殺されちまうわけだ。あー笑える、っフフ……!なぁサロモン、良かったな?互いの愛を賭けた戦いはお前の勝ちだったんだから!」
ああ、そうだ。悪魔と契約するほどに、彼は彼女のことを愛していたんだ。彼は彼女のために他人を傷つけてまで、殺してまで愛を貫こうとしたんだ。
ボクも、メイさんのためにドロースと契約を交わした。メイさんのために、思い返してみれば頼まれてもいないのに、復讐なんかに突っ走って彼を殺した。
そうだ、同じだ。そう気がつくと心臓が突然冷えるような気分になった。
サロモンは頭の中でもすっかり茫然自失といった様子だ。アタシはそれに乗じ、地面に転がった魔法使いの身体のそばに屈んだ。
魔法使いが着込んでいるタキシードを丁寧に剥いて、上半身をはだけさせると青白くなった肌に爪を立てる。心臓の辺りを真ん中にして逆十字架を描き、その裂け目を開いてぬるい心臓に触れる。
「アンタも良い趣味してるわよねぇ。人が愛で破滅するのが好き?」
ストルゲがアタシたちに協力を持ちかけたのは、きっと彼自身が魔法使いをもてあそぶための材料を求めていたからだろう。利害が一致したアタシたち――いや、サロモンと魔法使いとの戦いが見たかったからそう仕向けただけってところか。
そう思って話しながら、血で濡れた指を舐める。血はあんまり美味しくないし好きじゃない。けれどこれから心臓を……いや、人間の魂に久々にありつけると思うとゾクゾクした。
「ご明察だな。ああ、大好きだよ。馬鹿みたいだろ?所詮性欲をちょっと美化しただけのくせに、酔っ払ったみたいに何でもしちまうの。今回の戦いは滑稽過ぎてマジで最高だったよ!サロモンにも俺の玩具になる素質があると思うんだよなぁ、なぁマジで俺と契約しねえ?」
ストルゲは笑み混じりにそんなことを口にする。アタシはそれを聞き流しながら心臓にそっと触れて、血管をぷちぷちと引きちぎる。細いそれは簡単に切れるものの、心臓に繋がった太い血管は切れそうにない。アタシはそれを爪で裂き、心臓を優しく取り出した。
「アンタと契約したらサロモンはアタシ共々どうせ破滅させられんでしょ?コイツみたいに……。それは駄目よ、この身体はアタシのものでもあるんだから」
人間が愛で破滅するのが大好きだなんて白状しておいて、その上アタシたちを利用しておいて、破滅させようという魂胆を隠しもせずに契約しないかなんてよく言うわ。心臓を抜き取られた可哀想な魔法使いさんを眺めて、自分はこうはなるまいと思いながら口にする。
そしてアタシは口をなるべく大きく開き、心臓を一口食べた。
「そりゃ残念」
その声を他人事のように聞きながら、心臓を飲み込もうとした矢先。
「ぶっ!ぐぇっ、はっ、おぉえっ!まっ、ぶっは、まッず……!」
サロモンがボケっとしてたからその間に飲み込もうとしたのに、サロモンはアタシが心臓を飲み込もうとしたその瞬間にめちゃくちゃ噎せやがった。心臓を飲み込もうとするのと同時に吐き出そうとしたせいで、喉がとんでもなく気持ち悪いことになっている。汚く噎せる声が止まらない。
ちょっとサロモン!アンタねぇ、アタシとの契約破るつもり……!?吐き出すな!飲み込ませろこのクソガキ!
突然ボクの口に心臓突っ込んでくるなよ!もう少し準備時間の一分や二分を用意してやるくらいの気遣いって普通あるだろ……!
「ぶっ……ハハハ!いやぁお前らホント最高だよ!何してんだか……!」
ボクたちは爆笑し始めたストルゲを噎せ続けながらも強く睨みつけた。




