ご飯の準備だ、使い魔ズ!
嘲るような笑いの声にはっとして、ボクは咄嗟にそちらに視線をやった。幻聴なんかじゃなかったし、幻視でもなかった。ストルゲは小動物が馬鹿なことをしたのを見るように、下らないとその目で明らかに語っていた。
ストルゲは娼婦が魔法使いに縋り付いて泣くのを眺めながら、肩をすくめて一言吐き捨てた。
「馬鹿だったな。そんな卑しい女になんか執着してるからいけねえんだよ」
嘲りを隠しもしない、引くレベルで堂々と失礼な声色だった。それを聞いたリーゼは、顔をあげるわけでもストルゲを睨みつけるわけでもなく、大きく声を上げて泣き始めた。
「あーあー、うるせぇの。……にしてもお前らやったじゃん!好きなやつ?の仇も取った、卑しい愛に終止符も打った、最高だよお前ら!やっぱ応援して正解だった……!なぁ、今度は俺と契約しないか?」
リーゼに対して眉をひそめておきながら、ストルゲはぺらぺらとボクたちに対する褒め言葉をまくし立てた。ボクが困惑して眉をひそめると、ドロースはストルゲがさっきしたように、その提案をふっと鼻で笑った。
「お口が達者ねぇ、執着の悪魔ストルゲさん。アンタそんなこと微塵も思ってないでしょ。このクソガキ一人なら丸め込めたでしょうけど、アタシのこと丸め込めると思わないでよ」
アタシがそう告げてやると、案の定ストルゲは胡散臭い笑みをやめた。代わりに露骨に意地の悪い笑みが表れる。アタシ的には変に取り繕ったやつよりどっちかといったら後者の方がまだ好感を抱ける。サロモンは困惑しきってるみたいだけど。
「さすがは同類ってとこか。……とりあえずソイツらの魂食っちまえよ」
ストルゲは顎で魔法使いの骸と泣き続けている娼婦を指した。けれど魔法使いはともかくとして、ボクにリーゼの魂を食らう理由はない。
何言ってんのサロモン。アンタ散々卑しい娼婦って言って軽蔑してたじゃないの。世の中に蔓延る下賎な存在、アタシが食っちゃえば社会貢献になるわよ。今更いい人面する必要なくない?そういうのマジ寒いんだけど。
それとこれとは話が別だ。それに、娼婦っていったって、卑しい身分でも同じ人間だし、同じように恋心を抱いてるわけだし……。
「おいおい、食べないんなら俺が食うぞ?」
ストルゲが不意に言い出し、リーゼに歩み寄った。彼女が涙で濡れて歪んだ顔を上げる。目も泣き腫らし、痛々しい顔になっている上、ストルゲを見上げるその目には恐怖が滲んでいる。ボクは咄嗟に彼女の身体を突き飛ばした。
「死にたくないなら逃げろ!」
彼女を止めようとするドロースを必死に抑え込みながらそう口にすると、リーゼは目を丸くした。恐る恐る立ち上がり、彼女は足をもつれさせそうになりながら走って逃げた。
ストルゲは呑気に腰に手を当て、笑みを滲ませながら彼女が走り去るのを見送った。
「ホント、人間ってことごとく馬鹿だよなぁ」
ストルゲが呟くのに、アタシは強く共感してしまう。アタシの美味しいご飯を取り逃がすなんて。しかも散々自分は蔑んでたくせに……。サロモン手のひら返しにうんざりしながら、アタシは深く頷いた。




