決戦の夜だ、使い魔ズ!
メイとかいう女と別れ、アタシたちは街の中で魔法の扱いを練習した。昼間っから飲んだくれているたちの悪い男を魔法で少々痛めつけてみたり、口にした食べ物を複製してみたり、あらゆることを試してみた。
サロモンのセンスがそこそこであったのもあって、習得はそれなりに早かった。この調子なら夜にはあのイキリ魔法使いをボコボコにできる望みもある。最悪ストルゲも味方らしいし、死にそうになった時の慈悲くらいはかけてくれんでしょ。
魔力というのは、ドロースのものに限った話なのかもしれないが、炎のようなものだと思った。上手く風を吹かせて向きを決めてやると、色んな形になる。その形を上手く操作すれば武器にもなるし、道具も作れるし、何かを押し動かすこともできる。
これを応用すればエレオスがよくやるような転移魔法もできるのかもしれないが、まだボクはそこまでできそうにない。これからもっと扱いを身につければスペインの方の女の子がしていたように、霊媒のようなこともできるのだろうか。そうしたらもう一度パパとママに……。いや、どうせ見放されてるんだからそんなこと望むだけ無駄だな。
得体のしれない他人のために復讐してやるなんて、アタシには理解できない。おせっかいってやつなんじゃないの?そう思うけど、サロモンはそんなの言ったところで聞く耳を持たなそうだ。
全く、神様や天使も元々好きじゃないけど、人間にはもっと呆れる。必死になって良いことしようとしちゃって……。結局サロモンだって好きな女に自分のこと見てほしいだけじゃないの。それを優しい態度とか口ぶりでコーティングするのとな馬鹿みたい。
とはいえ、このクソガキのお遊びに付き合えば久しぶりの人間の魂にありつける。あの魔法使い、今にボコボコにして食い殺してやるんだから!
日が沈んでいく。重厚な藍色の東の空から、甘酸っぱい橙色の西の空。淡い紫をした南の空を通って、全ての空がグラデーションで繋がっているのがよく見える。夜はすぐそこだ。
点々と灯される外灯の中を、人通りが少なくなる街の空気を掻き分け、暗い路地裏を確認する。その中であの娼婦――リーゼを捜した。どうせあの男はリーゼのそばにいるはず。もう一度リーゼに会えば、きっと怒り心頭で現れるに違いない。
人通りのない路地の中を、サロモンの小さい足音だけを響かせながら歩く。石畳と靴がぶつかる音。路地裏特有の気持ちの悪い匂い。その中にふと、甘い匂いが微かな風にのって流れてくるのを感じる。
甘い匂いはだんだんと近づいてくる。もはや足を進めて近付こうとする必要もなさそうだ。ボクはその場に足を止め、静かに息を吸い込んだ。




