魔法をかけて、使い魔ズ!
契約を交わし、あまり実感が沸かないなあと思いながら首を傾けた矢先、ドロースがボクの左手を掲げて口を開いた。
「さぁ、ようやく魔法が使えるようになったわけだし!メロンの敵、取らせてもらおうじゃないの」
アタシは前にしていたように、爪を尖らせてアイツの顔面を引き裂く程度のことをしてやろうと画策していた。左手の指をゆっくりと折り、魔力を込めてぎりぎりと鋭く爪を伸ばす。さて、これてアイツの顔を……。
そう思って腕を振り上げた矢先、自分の爪がちっとも伸びていないのに気がついた。
「……は?」
ドロースはぽつりと呟いた。ドロースが愕然としている間に、ボクはボクの腕を下げた。メロン一つごときでそこまで暴虐に走るほどボクは愚かじゃない。
とはいえ、ドロースが意図した際に魔法が使えていなかった。どういうことだろうか。そう思っていた矢先に、ストルゲは呆れたように首を横に振りながら口を開いた。
「おいお前、契約の内容しっかり確認したのか?ドロースがサロモンに魔力を共有してやるんだろ?そもそも、その身体はサロモンのもんだ。魔力を与えられた魂を持つサロモンが魔法を使うんだよ。実体がない、魔力と魂だけしか持ってないドロースに魔法は使えねぇに決まってんじゃねえか」
嘘でしょ。アタシようやくまた魔法が使えるようになったと思ったのに!はぁ……もうショックで灰になりそう。
それじゃあ、今のボクは魔法を使えるのか。何やら落ち込んでいるドロースを傍目にそう気がつくと、まずは練習してみたい気になった。魔法が使えるということは、何ができるんだろう。まず上手い使い方も分からない。
けれど、ドロースがいつまでもメソメソしていると調子が狂う。そういう理由で、ボクは最初の魔法で何をするかを決めた。
昔ママが読み聞かせてくれた絵本で見たように右手の人差し指を立てて、くるっと綺麗な円を描く。そうしてから目を閉じて、頭の中に昨日見たメロンの形を思い浮かべる。すると、ボトッと音がした。
咄嗟に目を開けてみると、埃っぽい床に大きなメロンが落ちていた。アタシは思わず目を輝かせた。
「やるじゃないの、サロモン……!」
ストルゲもその様子を見て少し笑みを浮かべた。それから両手を合わせてパチパチと拍手さえしてくれた。
「なかなかやるじゃねえか、さすがはエレオスの使い魔だ」
アタシはナイフを服で拭うと、早速屈んでメロンにナイフを突き立てた。もちろんサロモンの身体が弱いのは分かってる。けれど今は魔法が使えるもんね、サロモン!ほら、アタシがこれ切るから、アンタがこの手に魔力込めて!
力を入れる……?えーと、こうかな……。
やはりまだ魔力の扱いは分からない。ボクはナイフを握った自分の手に集中し、さっきしたように力が強くかかるのを想像した。すると、ゆっくりとナイフがメロンの果肉を切り開いていく。その中には淡い緑の潤った果実が見えた。
完璧!そのまんま魔力込めててよね、上手いこと四等分くらいにするから!
それからしばらくしないうちにメロンは四等分の大きさになり、アタシは早速その一つに喰らいついた。種一つない清らかな緑の果実に、ようやくありついたのだ。
「……味が、しない」
ドロースが呟く。たしかに、全く味がしない。瓜のような食感と無味無臭の果実。ボクは眉を寄せ、その果実を飲み込んだ。
それを見たストルゲもメロンの一つを手に取り、苦々しげに眉を寄せた。
「こりゃひでぇな。……サロモン、お前メロン食ったことないだろ」
眉を寄せたままストルゲが口にする。当然だ、メロンなんて金持ちの食べるもの、倹約主義のボクの家族が食べるわけ無い。そう思ってボクは頷いた。けれどメロンらしきものの後味のせいで口を開く気にはならなかった。
「こういう想像で物を作る魔法はな、具体的なイメージがないと駄目なんだよ。そもそもお前らはメロンの真ん中まで切れなかったから知らないかもしれないが、メロンには中心に種がたくさんある。それも知らずに、ナイフを入れたときにちょっと見えた果実の色だけ反映してたんだろうな……よくできてはいるが、経験不足に尽きる」
「はぁ……何だよそれ……」
サロモンもアタシも落胆した。やっぱり、このクソガキが魔法を使いこなせるまでの道のりは長いかもしれない。




