交渉タイムだ、使い魔ズ!
そうしてボクの頭を撫でるストルゲの手は、やけに優しかった。ボクは本当に悪魔の手に撫でられているんだろうか。やはり、悪魔だからといって一概に悪いやつだとか決めきれないのかもしれない。実際にボクのことを心配してくれているらしい素振りに、兄貴がいたらこんな感じなのかなと思ってしまう。
けれどそうしてぼんやりしているうちに、ストルゲの手は早急に離れた。
「さすがにお前らも契約の仕方はわかるだろ?悪魔の魂と人間の魂を持った一人の人間がその中で契約結ぶのは前代未聞だが……普通にやってみればできねえことはないだろ」
アタシは思わず目を逸らした。
契約なんてしたことはほんの少ししかない。強制召喚で渋々契約させられたときくらいだ。そもそも人間の魂を食うためにその欲に漬け込んで、契約をして、そいつが破滅した後で魂を美味しく頂くなんて段階踏むのめんどくさいのよね。
そんなことするくらいなら早いところ殺して食う方が手っ取り早い。それに際してどうせ殺すんなら芸術性が高いほうがいいと思って、ちょっと殺し方に凝ってるだけ。
ゆえに契約の細かい段階や手順なんてほとんど分からないし、なんかにサインしたような気がするという何十年も前の記憶しかない。
まぁ、なんにしたって契約内容はどうすんのよ。この状況ならアンタからの要求は魔力を共有するとかが一番無難な気がするけど、それでアンタは何を代償に払ってくれるわけ?
そうか、代償を払わなくちゃいけないのか……。エレオスの時には血だったけど、今回はそうはいかない。きっとこの悪魔の主食は血なんかじゃないだろう。いや、でもそもそもボクに魂を食われて取り込まれてる時点でコイツは食べ物なんて人間のもの以外いらないんじゃないか。
逆に、ドロースは何がほしいんだ?
強いて言うなら元の身体!……といってもアンタに要求したところでどうせ無理だろうし、現実的なやつを挙げるとしたら時々……月に一回でいいから人間の魂が食いたい。
アンタさっき、アタシがもう魂食わないみたいなこと言ったでしょ。たしかにアンタに取り込まれたせいで魂を食わなくても生きていられるようにはなったけど、人間の魂の味を忘れたわけじゃないのよ。悪魔の味覚的にはアレすんごく美味しいし、前みたいに思いっきり食べたいわけ!
それに、アタシも魂だけになったって悪魔なの。魂を食えれば力もつくし、エレオスに一矢報いるチャンスも作れるかもしれない。
アンタの魂は食えないから、そのへんの人間殺して食わせて。なんならアタシがアンタの代わりに殺すところからやってもいいけど?
正直、悪魔のために人を殺して魂を餌付けしてやるのは大いに気に入らない。しかし今回に限ってはメイさんの復讐というのが大きな目標としてあるわけだし、その復讐を果たせば自然と一人死人が出るから、そいつの魂を食わせればいいだろう。
ボクの身体でそいつの心臓を……しかもはっきり気を持った状態で食わなくちゃいけなくなるのはかなりしんどいけれど、メイさんのためならその程度の契約は安い。
それにこの契約一つでエレオスの支配から離れて自由になるチャンスが掴めるんなら、それも好都合だ。
どうやらこれで契約の内容は確定したみたい。
なかなかいい内容だと思っていたところでちらっと目をやると、タイミングを見計らったようにストルゲは手の内からマジックのごとくぺらっと羊皮紙を取り出した。それからご丁寧にも赤黒く悪趣味な色の羽根がついたペンを用意し、こちらに笑みを見せた。
「ほら、契約するんなら使えよ」
その言葉とともに飛んできた羊皮紙と羽根ペンが、ボクの手の中にすぽっと収まった。




