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お慈悲をください、悪魔さま!  作者: 真坂凜子
悪童たちのお留守番
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昔話だぞ、使い魔ズ!

「"慈悲"なんて大層な名前を冠したエレオスは、主……いわゆる神に命じられ、人間たちのお世話係になった。神のお告げを伝えたり、神に言われた通りに人間を助けたり、はたまた殺したり」


 ストルゲはそう言って肩をすくめる。手の中に収まった本を手すさびに何気なくぺらぺらと捲って、溜息を一つ吐いてから話を続けた。


「三百年くらい前だったかな……そんな中でエレオスは思った。"憎まれるべき人はどこにでもいるし、異端の恋も立派な愛だ。神の考えはあまりに堅すぎる!"ってな。それでアイツがどうしたかって、思い切って神に背いて堕天したんだよ」


 ボクは目を見開いた。堕天とはもっと悪いものなんじゃないのか。人間の異端を許すために堕天した悪魔なんて、そんなものがいていいのだろうか。


「なんだよ、それ……全然悪魔らしくないじゃないか」


 そう指摘すると、ストルゲはボクの方を少し見てからふっと鼻で笑った。


「その通り。あんまりにお人好しすぎたアイツは、悪魔たちの反感を買いそうになった。そもそも悪魔は人間にうんざりして堕天してきた連中がほとんどだし、それなのに人間に甘ったるくするなんて馬鹿馬鹿しいと思われたんだよな。で、そんなアイツに悪魔の心得を教えたのがこの俺ってわけ」


 そう説明しきると、ストルゲは手すさびにぺらぺらと捲り続けていた本をぱたんと閉じた。

 なるほどね、通りで偽善ったらしいしムカムカするわけだわ……。とはいえ、それだけでは説明のつかないことも多々ある。なんであの悪魔は人間の魂を食わないのか、そしてそもそもこの悪魔がこんなところに来ているのか。それを問おうと腕を組んでベッドの縁に腰を下ろした矢先、ストルゲはまた話し始めた。


「それでもアイツはやっぱりお人好しなんだよ。悪魔の主食って人間の魂だろ?なのにアイツ食わねえの。餓死寸前まで空腹を耐えやがって……。あれでも俺の可愛い後輩だからさ、俺が提案してやったんだよ。そんなに人間の魂が喰いたくないなら、主食を他のもんにすりゃいいだろって」


「他のもの?」


 ボクが眉をひそめ、首を傾けて問いかけると、ストルゲは僕と目を合わせて深く頷いた。そうしてから閉じた本を膝において腕を組み、説明を続けた。


「"フランスのサン・ラ・ヌイト城に、タチの悪い吸血鬼が棲んでる。害獣駆除だと思ってソイツを殺して、その魂を食っちまえ。上手く行けばお前は吸血鬼の形質を引き継いで、人間の血で生き延びられるようになるんじゃねえの?"って言ってやったんだ。

 いやぁ俺ってマジで優秀だよな!こんなにいい先輩ってなかなかいねぇよ……。分かるかお前ら?お前らがここでぬくぬく暮らしてられるのは、この、俺様が!エレオスにサン・ラ・ヌイト城の吸血鬼を倒すように促して、俺のおかげで見事それに成功したエレオスが、この城もモノにしたから!ほら感謝しろ!」


 ストルゲは顎をツンと上げ、眉毛を一瞬上げてから下ろしてこちらと目を合わせてくる。そうして腰に手を当てて、高らかに笑った。

 何よあのいかにも自信満々ですみたいな顔。なんか腹立つわ。そう思っていたところで、サロモンが呆れ気味な声音で勝手に口を開いた。


「お前は?元天使なのか?」


 そう聞くと、ストルゲは笑いを止めてボクの目を見据えた。その後で視線を下の方に泳がせると、腰に当てた手を頭にやってぽりぽりとかいた。


「まぁ、一応はな。でもそれは黒歴史だから勘弁してくれ」


 そう言って苦笑いしたストルゲは、それから腕と脚を組んで神妙な顔をしながら息を吐いた。


「とにかく、本題について話さないとな。そもそも俺がここに来たのは他でもなく、お前らに忠告するためだ。……単刀直入に言わせてもらうと、お前らが首突っ込んでるあの娼婦の件。あれ、手ぇ引いてほしいんだわ」


 ストルゲは、真面目な顔でそう言った。

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