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お慈悲をください、悪魔さま!  作者: 真坂凜子
悪童たちのお留守番
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いざお勉強、使い魔ズ!

「へぇ、お前らホントに何にも聞かされてねえのな。俺のことも知らないみたいだし……」


 ニヤニヤした笑み混じりにストルゲはそう言った。けれど"俺のことも知らない"という下りは少し落ち込み気味なトーンだった。そうして少し目を伏せてから、この悪魔はボクの方に視線を向けた。いや、正確に言うならボクの手元に目を向けた。


「それ。エレオスのことも載ってんだろ」


 そいつが顎で指し示したのは、アタシたちの手に収まっている『悪魔召喚全書』。たしかにアタシのことも載っていたんだから、エレオスのことが書かれていてもおかしくない。

 アタシはこんな本の存在は知らなかったものの、サロモン……アンタは知ってたんでしょ?だったらもっと早く"あっ、この本にエレオスのことが書いてあるかもしれない"って気づいてたって良かったじゃないの!


 うっ……うるさいな!大体お前がそうやってうるさいからボクはまともに物事を考えることすらできないんだよ……!

 頭の中でドロースが責任転嫁を非難してくる声を全力で無視しながら、ボクは本を開いた。ゆっくりと目次に指を添わせて、サロモンのことが書かれているページを探す。


 ……ねえまだ?アンタ読むの遅くない?ってか今めくったページ!ちゃんとエレオスって書いてあったでしょ!

 そう頭の中でぐちぐちやっているうち、ストルゲが大きく溜息を吐いた音が聞こえた。そしてストルゲは指をぱちんと鳴らしたらしい音も聞こえた。

 途端にアタシたちの手に収まっていた本はふわっと宙に浮き、ぺらぺらとページが捲られたかと思うとあるページでそれが止まった。それを読もうとした矢先、本に口が生えて勝手に喋り始めた。


「慈悲の悪魔エレオス。恐らく、本書に挙げられている悪魔の中で最も人間に友好的。召喚に必要なのは心の底からの涙と助けを求める言葉のみ。ただし、私もかつて召喚して話そうと試みたが実現しなかった。相当困窮しないと現れないらしいので、実在の可否は確かめ難い。謎が多いが、元天使という説が有力」


 いかにも学者らしく低い声がそう言い切ると、本はその口を引っ込めてぱたんと閉じ、床にぼとっと音を立てて落ちた。


「よくできた本だよな、ホント」


 ストルゲが右手を軽く上げると、まるでその手に吸い寄せられるかのように本が浮き上がり、飛んでいって彼の手にすっぽりと収まった。


「とはいえ残念ながら、まだまだあいつに関する情報は足りねえ。このストルゲ様が丁寧に補足説明をしてやろうな」


 そう言って誇らしげに笑みを浮かべたストルゲは、いかにも偉そうな笑みを浮かべて腕を組んだ。それから本を片手に持ちながら部屋にある革張りの椅子に腰を下ろした。古い椅子はぎしりと音を立てたものの、ストルゲの身体を柔らかく受け止めた。


「遡ること……あー、今からだと二千年くらい前?だな」


 えっ?待ってよ待ってよ。エレオスってそんな長生きだったの?もっと生意気な新参者だと思ってたんだけど……。


 感情をダダ漏れにして喋ろうとしているドロースを止めるべく口元をきゅっと閉じた。黙って聞け。話を遮るな。

 にしても二千年って……たしかにあまりに長生きだ。せいぜいほんの少し年上程度にしか見えないのに、そんなに長い間悪魔をやっているのか。


「その頃に慈悲の天使として、エレオスは生まれたんだ」


その悪魔は、そうしてしみじみと語り始めた。

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