九死に一生、使い魔ズ!
アタシが目を覚ますと、見覚えのある天井が視界に入った。これは……サン・ラ・ヌイト城の寝室?
いつも通りの朝を迎えたような気になって身体を起こすものの、部屋の中は妙に薄暗い。窓の外はどうやらまだ夜だ。
どんだけ不健康な暮らしをしていたんだか。それを思い返そうとしたところで、こんなことになる直前……つまり、アタシたちがぶっ倒れた場所について思い出した。
アタシの感覚に間違いがなければ、さっきのあの男は魔法が使えた。どことなく魔力を感じたのだ。もしアタシがちゃんと悪魔の体でいたら、人間のイキリ魔法使いなんて腕一本でボコボコにできたのに……!
それにあのリーゼって娼婦をひっ捕まえるのにサロモンが必死になりすぎていたからだか分からないけど、アタシがサロモンの身体を動かして強引に逃げ出そうとしたときには身体が動かなかった。
何ならコイツ……アタシが何回も忠告しようとしたのも聞こえてなかったんじゃないの?ただでさえ弱っちい体の癖に、無駄に意地張って死なれたもんじゃこっちまで堪んないわ!
ドロースの考えがいちいちボクの理性に刺さる。実際にボクが勢いづきすぎたせいで半ば殺されかけたのだ。確かにムカつくし絶対に好きに離れない嫌な悪魔だが、ドロースはボクよりは長生きしている。知識も知恵も、腹立たしいけれど確かにこいつのほうがあるだろう。
今回ばかりは謝るしかないかもしれない。……ボクも突っ走りすぎた自覚がある。ごめん。
何よ突然シケた声しちゃって。一周回って気持ち悪いんだけど。ていうかアンタのその突っ走りに巻き込まれた身としてイライラしてんだからね!身体が違かったらアンタ今頃ぶっ殺されてたんだから!肝に銘じときなさい!
……ごめん。
ふん。……とはいえ幸いなのかしら。今もアタシもといアタシの魂が収まったサロモンの身体はちゃんと生きているらしい。ベッドを降りてみると、しっかり埃っぽい絨毯の感触が足に伝わった。
一体何が起きていたのか分からないけれど、どうせカワイイ使い魔のピンチを悟った偽善悪魔が帰ってきて助けてくれたとかいうオチでしょ。ぜっったい感謝しないわ。
そう密かに決めたところで、部屋の外から足音がする。
エレオスが帰ってきているらしい。悪魔特有の嫌な感じがする。もっとも、ドロースの魂を身体に突っ込んでいるせいでその嫌な感じも若干麻痺してしまっているのだが、何となく廊下を歩くその気配が悪魔のものであるのは分かる。
足音が近づいてくる。なんならビンタの構えでもしといてやろうかしら。
……待ってくれ、ドロース。
足音が違くないか?やけにドスドスしてるっていうか、エレオスはもっと静かにゆっくり歩くと思うんだけど……。
はあ?……知らないわよそんなの。アイツの足音なんて興味ないし。
とはいえ、言われてみるとその足音はたしかにドスドスとしているような気がする。いつものお上品なエレオスの足音とは違って、無遠慮でペースが早いような……。
そう思っているうち、ドアノブがギィッといって部屋の扉が開いた。
「ああ、目ぇ覚めたんだな。エレオスの子分共」
そう言いながら、見覚えのないその悪魔はアタシたちを見下ろして笑った。




