ぐだぐだ頑張れ、使い魔ズ!
全くこのクソガキには呆れ果てたもので、目が覚めるや否や適当な朝ごはんを食ってすぐに家を飛び出した。
恋は盲目なんて人間の言葉があるけど、まさにそれ。すっかりあの女のことしか頭にないみたい。全部その思考が流れ込んでくるから気持ち悪くてしょうがない。全く、よりにもよってあんな女……。
ボクは懸命に聞き込みを続け、例の呪われた娼婦を探し求めた。
娼婦たちも昼間はどこかで働いているらしく、薄暗い路地にいる娼婦は疎らだった。一人ひとりに話しかけてみたりもしたものの、生憎その呪われた娼婦らしい女は見当たらない。
代わりにリーゼというその名前を出してみせても、何を言っているのか分からないと眉をひそめるか、あからさまに嫌そうな顔をして離れていくかのどちらかだ。
サロモンもそうして離れていく連中の腕を掴んで引き留めようとするけど、あいにく力が弱すぎる。娼婦も思いっきり力を入れて簡単に振り払ってしまうから、結局大した情報も得られなかった。
もういい加減に諦めたらいいじゃないの、何も分からなくたって努力しただけで認められるとかあるんじゃない?
ふざけるな、結果の出ない努力なんて努力になってないじゃないか。そもそもお前だって"一生懸命やったって結果が出ないんじゃ意味ない"とか言ってただろ。
はぁ、そういう細々したことばっか気にしてるから堅苦しくて嫌んなる……。
あんな女、関わるだけ損に決まってる。人生っていうとヒトじゃないから語弊があるけど、その先輩からの忠告。アタシとあの女の魂の相性は激悪よ。アンタの身体にアタシの魂が収まっている以上、下手に関わって二人仲良く破滅とかマジで勘弁してよね!
何を言ってるのか分からない、魂の相性とか何とか……説明するんならはっきり言えよ!
だからそれは!
……待って、あそこにいる女。まだ声かけてなくない?いかにも幸薄そうな……残念な感じの女ね、顔は良いのに表情が良くない。アタシみたいに自信持ってれば少しはモテそうなのに!
ああもう話題を逸らすな!ていうか本当に失礼だなお前!声はかけるけど……!
ボクがそうしてその娼婦に歩み寄ってみると、妙に甘ったるい香りがした。頭がぐらつくような甘い匂い。それに混じって、汚物やら何やらで汚れた路地の匂いが少しだけする。
けれどその匂いはすぐに消えた。鼻が麻痺したのかもしれないが、鼻を一刺ししてからあっという間に去っていった。ぼんやりと残り香が後を引いているのにまだ頭がちかちかするような心地がする。
とんでもなく濃い匂いね。香水つけ過ぎじゃないの?いやでも、この女の香水ではない……?
ボクはその匂いにひそまった眉を最低限直し、多少厳しい表情になってはいるだろうままで声を掛けた。
「リーゼという女か」
その女は、ぼんやりしたようにアタシたちに視線を向けた。けれどアタシたちを見てはいないような感じがする。
確かに目は合っている。けれどこの女、アタシたちを透かしてどこか遠くを見ているような……なんて言ったらいいのか分からないけど、違う世界にいる人と目を合わせたみたいだった。
「そうですよ」
娼婦のくせに軽やかな、やたらに美しい声でその女は答えた。そしてボクに視線を向けながら微笑んだ。




