いざ復讐だ、使い魔ズ!
彼女は、目を見開いた。
ボクの目も丸くなった。……ドロース、だからなんでそんなことするんだよ。
勘弁してよ、アタシこんな女好きじゃない。むしろ嫌いよ!なのになんでアタシが協力してやらなくちゃいけないの?
いいからもうなかったことに……ってもう、痛いわね!唇を噛まないでくれる?
うるさい、黙ってくれ。今更なかったことにするなんて違和感しかないだろ。大人しく付き合え!
「ああ……やっぱり、慈悲に満ちた方なんですね」
彼女はまたうるうるとした瞳でボクを見つめた。そして目元をまたそっと押さえる。けれどボクが差し出し掛けたハンカチを受け取ってはくれない。慎ましくていい子なんだろう。
拒まれてるんじゃないの?
見当違いなこと言うな。ヘコむからやめろ。
「私はマディスといいます。良かったら……いえ、ぜひ、メイと呼んでください」
彼女は柔らかな笑みとともにそう言った。少し涙の滲んだ瞳がきらきらと煌きながらボクを見つめる。心臓が痛いくらいにドキドキしている。このまま発作か過呼吸でも起こして死んでしまうかもしれない。けれどその感覚が、苦しいのにくすぐったくて、とても心地よくて暖かい。
ぼんやりしてしまいそうなのをどうにか踏ん張って、ボクも自己紹介をする。
「よろしくお願いします、メイさん。ボクは、サロモン……と、いいます」
名字まで言うかどうかで悩んだのだ。
洗礼名なんて、悪魔と契約した上に悪魔の魂を食ったわけだから今更口にできたものじゃない。
それにボクにはやはり名字を名乗る資格もないはずだ。パパとママはまだ怒っているだろう。いや、パパとママなんて呼ぶことも許されないかもしれない。
なに?アタシに罪悪感でも抱かせようとしてるわけ?つまんないことしないでくれる?アタシはあの変態悪魔じゃないし、メソメソされてもキモいだけだから!
「サロモン、さん。素敵なお名前ですね」
頭の中でキイキイと喚く悪魔の声と違って、鈴の鳴るような優しい声。きっと天使や妖精というのはこういうふうに喋るんだろう。
どうせならそういう優しい声の魂をボクの身体の中に取り込みたかった。なんでよりによってこんな魂を食わされてしまったんだろう。
はぁー……うっざ……。この女の魂なんて絶対食わないからね、アタシ。
もちろんそんなことするわけないだろ、ボクにはまともな自制心と良心がある。エレオスじゃあるまいし、絶対彼女を食ったりするもんか。
「それで……大事な人がどうしちゃったのか、聞いてもいいですか?」
彼女の目を見つめていられない。
何だか何もかも、この気持ちも含めて見透かされてしまいそうな気がするのだ。そんな恥ずかしいことにはなりたくないし、けれど彼女のその澄んだ碧の瞳がみたい。
ボクはどうにか目を伏せたり上げたりしながら彼女に問いかけた。
「ええ……。優しい方でした。信心深くて、穏やかで、誰にでも手を差し伸べるような方で……。ああ、お父様……」
彼女は眉を下げながら説明をし始める。彼女は、父親を亡くしてしまったのだろうか。親を殺されたと思うとボクはまた、なおさら彼女を助けたいという気持ちを募らせてしまう。
「あなたのお父様のためにも、恨みを晴らしましょう。ボクに任せてください」
彼女は安心したように微笑んでから小さく頷いた。
「あなたの慈悲に感謝します」




