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お慈悲をください、悪魔さま!  作者: 真坂凜子
悪童たちのお留守番
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さあ突っ走れ、使い魔ズ!

 さーて、あのヘラヘラ偽善悪魔がいなくなったわけだけど何する?

 あっそうだ!ねえねえねえ、出掛けない?この城陰気臭くて嫌んなっちゃうんだもん!サロモンもそう思うでしょ!よし、そうしよ!出発ね!


 ボクは一言も賛成だなんて言ってない!ああもう勝手に足を動かすなよ!

 同じ身体の中によりによってこの悪魔の魂か。悪魔の魂を食わされるにしてもせめてもう少しいい悪魔がいただろう。全部の悪魔がこうまで話を聞かなくて、うるさくて、クズであるわけではないだろうし。


 ちょっと。クズって何よ。


 そうこうして歩いているうちに、ボクたちは城の重たい扉を押して外に出た。今日は曇りだ。ほんの少し雲が多いけれど、これから雨が降りそうというわけではない。そこまで寒くも暑くもないし、散歩にはお誂え向きといったところかな。

 どっかの誰かさんがボクの身体の中で喚いたりしなければ。


 アンタわざとやってんでしょ。


 それが分かるんなら黙ってろ。


 とにかく、一番近くの街に辿り着く。狭い石畳の道を馬車がカパカパと走り、人々の往来の波の中で肩を乱暴に押される。


 ねえ、アンタ貧弱すぎじゃないの?アタシももっと強かったわよ。このくらいの人間押し返してやりなさいよ、ほら。


 やめろ、そんなに悪意タラタラになってどうするんだよ。僕にはそんな悪徳はない。

 しかしドロースはボクの話を聞かず、往来の中でぶつかった肩を思いきり突っ撥ねた。


「おい!」


 ドロースを咎めるつもりで声を上げたものの、その相手は怯えたようにボクを見てから頭を下げた。


「ご、ごめんなさい……!」


 一つにまとめられた艷やかな金髪、青色の澄んだ瞳。頭を下げたその女の子は、許してもらえたかを確かめるようにそっと顔を上げた。許しを乞い求めるように下がった眉は、その白い額と輝いた瞳によく映えている。


 なに?惚れたの?この女に?ふーん……じゃあ任せといてちょうだい。


「ああ、ごめんね。大丈夫?怪我はないかい?」


 あっこら、勝手に喋るなドロース!

 でも今口を開いても変になってしまいそうだし、どうしたらいいか分からなくてむぐむぐと口ごもってしまう。


 ちょっとアンタ、顔赤くしないでよ!格好つけきれないじゃない!せっかくこの女落としてあげようとしてんのに。

 優しく手をとって、そっと女の頬に手をやって……


 き、キザったらしいな!やめてくれよ恥ずかしい!

 というよりも、触れた肌が柔らかいし手が小さいことの方がボクにとっては大問題だ。まるで天使じゃないかと感動を噛み締めながら、ボクはそのまま硬直していた。

 それなのに、ボクの身体は突然取ったはずの手を放してしまった。ドロースの意思で動かされたらしい。なんてもったいないことをしたんだと一瞬だけ思ってしまう。

 体の真ん中が熱くなって、肌の表面が冷めていって、どくどくと心臓の鼓動が早まる心地がする。これが、恋というやつだろうか。


「い、いえ……平気です」


 そう言いながら、彼女は目を伏せた。その目が潤んでいるような気がして、ボクは焦ってしまう。もしかして傷つけてしまったんだろうか。痛いことをしてしまったんだろうか。そうあれこれ考えて焦った末に、ボクはエレオスに用意された服のポケットに入っていたハンカチを取り出した。


「大丈夫、ですか……?その、泣かないで、ください」


 こういう時にどうやって話したらいいのかわからない。キョドキョドしてしまっているという自覚がなおさら恥ずかしくて、顔が熱くなるのがわかる。


「すみません……あなたの手に、懐かしい感じがして……」


 彼女はそう言いながら道の脇に避けて、自分の指で涙をすくった。ボクも彼女に併せてそのそばに立つ。

 そういえば、ドロースがすっかり静かになってしまった。さすがに空気を読んだのかもしれない。ふん、お前もちょっとは成長したな。


 ……違うわよ、黙りなさい。アンタのそのデレデレした思考全部流れてくんのホント不愉快なんだから。


 違うんならなんで黙ってるんだよ。いや、そのほうが好都合だけどさ。


「実は、大切な方を亡くしてしまいまして。その方は、誰かに殺されてしまったかもしれない。……私は、その真相を調べに来たんです」


 彼女は苦しげな声でそう口にした。

 なんだか、その言葉に親近感を抱いてしまったのだ。かつてのボクのように、彼女もまた大切な人を誰かに殺されたかもしれない。それを許せないという気持ち、復讐したいと思う心。

 その一つ一つが鮮明に蘇る。

 その敵の魂が今ボクの身体の中にあるのはさておいて、彼女のことを助けてあげたいという気持ちが強くなる。


「もしも良かったら、ボクに協力させてください」


 ボクは、咄嗟にそう口走っていた。

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