良い子にしててね、使い魔くん!
―ボクがドロースを食わされてから数週間。ボクはまるでペットか何かのように、不気味なサン・ラ・ヌイト城でエレオスと暮らすことになっていた。
質のいい革張りの椅子を丁寧に掃除し、小さなテーブルをそばに置いて椅子に腰掛ける。この城に連れてこられてここで過ごすようになってから、椅子の感触はボクの身体にすっかり馴染んでしまった。膝の上に後ろ足のない猫のモナークを載せ、すっかり懐いてくれたらしいその背中を撫でつけて過ごす日々。
エレオスは相変わらずやたら優しいし、食事も美味しいし、ベッドも良質だ。割と住心地がいいのがまた腹が立つ。
ていうかもうっ!本当にしてやられた!あの悪魔は絶対に許せない。アタシの整った顔を蹴りつけた挙句に身体から魂を引き剥がして、しかもこんなクソガキの体に突っ込みやがって!
……ねえそう思わない?サロモン。
まぁ確かに、エレオスに突然裏切られたのは許せない。あまりに馬鹿にしていると思う。クソガキというのはともかくとして、両親の仇を勝手にボクの体に突っ込むなんて最低だ。悪趣味にも程がある。
ていうかそもそも、そんなに馴れ馴れしくしないでくれないか?頭の中でまでお前と関わりたくないんだよ、お前と会話なんてしたくない!黙ってろドロース!
やだひっどい。アンタ恋人いたことないでしょ!まぁアンタみたいなクソガキ相手にする女なんていないと思うけど。
ていうかホントよりによってなんでこんなやつの身体に入んなきゃいけないのよ!アンタの両親って確かあの聖職者よね?その血のせいですんごくムカムカするんだけど!
本っ当にうるさい!黙ってくれ!考え事にすらろくに集中できないじゃないか!
「あっ、僕喚ばれてるみたい」
同じ部屋の中で本を読んでいたエレオスが、突然沈黙を破った。……そもそもどっかの誰かさんのせいでボクの頭の中は常に沈黙じゃないしむしろ騒がしいんだけど。
ねえ待ってそれってアタシのこと?
頭の中でいちいち反応してくるドロースを無視すると、ボクの身体が勝手に小さいテーブルの上に頬杖をついた。どうやらドロースがそうして身体を動かしたらしい。
「ふぅん、どこ行くのよ」
ていうかずっと思ってたんだけど、オレの声で女の子っぽい喋り方するなよ!自分で聞いててイライラする!
うわぁ出た、アンタって他人に威嚇したい時オレとか言って格好つけた口調になるよね。それダッサいからやめたほうがいいと思うわよ。そもそもアンタみたいなクソガキにキャンキャン吠えられたところで全然怖くないけどね!
「今回はペルシアの方みたい。正直連れて行っても面倒見きれないから、ここで良い子にしててね。何かあったらなるべく駆けつけるけど……外に出るときは注意するんだよ。ふたりとも仲良くしててね」
脳内で言い争いもどきをしていたおかげで眉をひそめていたものの、それを見透かしたらしくエレオスは穏やかな笑みとともに仲良くするように忠告してきた。
「オレたちはお前の子供じゃない。……だからそれやめなってば、アタシの宿主がそんな格好つけ野郎とかマジで鳥肌だから!」
わざわざ口に出すかよ!ああもうホントに馬が合わねぇ……!
はぁ!?マジで何なのよその喋り方!素なの!?それもそれで寒いんだけど!
「まぁ、危険がない程度になら遊びに行ってもいいから。お利口でいてね」
エレオスはそう言ってボクたちに手を振り、マントを翻して消えてしまった。
最先不安でしかない留守番に溜息を吐くと、モナークはつまらなそうににゃあと鳴いてボクの膝から滑り降りていった。




