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お慈悲をください、悪魔さま!  作者: 真坂凜子
花の都の逆十字
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さあ出てこい、この悪魔!

 サロモンは魔法陣を描き終えると、自分の胸に提げた十字架のペンダントを掴んだ。手の中に収めたそれを見つめて、彼は暗い顔を浮かべる。


「十字架を逆さまにしたら逆十字架になるよね」


 彼はそう言いながら彼は自分の十字架をそっと逆さまにした。そして、逆十字架からその目を離さずにいた。

 親にもらったものか何かなのだろうか。大好きな、大事な両親に託された十字架を逆さにして悪魔を喚ぶのに抵抗があるのかもしれない。そう見当をつけながら、僕は彼を一人にしてあげることを思いつく。


「ガーゴイルの目玉をとってくるよ、ゆっくり支度するといい」


 僕はそう告げてから彼を後にして書庫を出た。戻るまでにある程度は落ち着いてくれているといいけれど。



_



 それから十五分程したあとで、僕は彼のいる書庫へと戻ってきた。この城にいるガーゴイルたちから目玉を一つずつもらって、ようやく八個集められたと思ったら割と時間がかかっていたらしい。

 戻ってみると、彼は魔法陣をすっかり描き上げて支度を済ませていた。埃を被った聖書を持ってきて、椅子に座って福音書の箇所を黙読しているらしい。僕が戻ってきたのに気づいた彼は、静かに顔を上げて本を置いた。


 僕はもらってきた石や銅の目玉を手の中で転がしてみせた。


「ほら、ガーゴイルの目玉八個。……ここに置けばいいんだよね」


 僕はさっき読んだ本の内容を思い出しながら、悪魔を喚ぶ方の魔法陣の周上に等距離で並べ置く。彼は小さく頷いて、緊張がちに立ち上がった。

 僕に関しては彼が助けを求めているのに反応して勝手に参上しただけであるようなものだし、これだけ大仰な召喚はやはり初めてなんだろう。そう思いながら僕は緊張した顔の彼を眺めた。


「何が怖いんだい?」


 彼に問いかけると、彼は僕を少し怪訝そうに見つめた。


「怖がってない」


 そう答えるものの、彼の目はすぐに泳いだ。その視線が泳いでいった先には、逆さまになった十字架がある。


「……パパとママの形見で悪魔を喚ぶのが嫌なんだね」


 僕がそう口にすると、彼は眉をひそめた。不愉快そうな顔をしながらこちらを向いた彼は、僕に何か言おうとしたらしい。しかし何も言葉は出なかった。結局彼は口を少し開いてから閉じて、目を伏せた。結局図星なんだろう。


「逆十字架くらいならスクレット伯爵も持ってたと思うし……探してこようか?」


 そう提案したものの、彼は答えない。少し黙って逆十字架を見つめたあとで、ようやく口を開いた彼は僕と目を合わせた。


「いい、……ボクの復讐だ。ボクのものでケリをつけなきゃ」


 サロモンはそう言ってからポケットに手を突っ込み、僕の八重歯を取り出した。それを悪魔を喚ぶ方の魔法陣の中心に丁寧に置いて、彼は一度置いた本を手にとってもう片方の魔法陣の中心に立った。


「逆読みのときには噛まないこと。ゆっくりでも正確に読むんだ。悪魔を完全に顕現させられたら、しっかり集中するんだよ。魔力を少しでも緩めたら逃げられる可能性がある。それと儀式の途中は一貫して、怯えちゃいけない。面識はないけれど、嗜虐を司る悪魔らしいからね。君が恐怖を抱けば漬け込まれるかもしれない、誇り高く強く気を持って」


 彼は逆十字架を見つめながら深く頷いた。

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