決戦の日だ、この悪魔!
外が薄明るくなってきた頃には目を覚ましてしまって、僕は大きく伸びをした。すると骨がバキバキ言うので、かなり窮屈な寝方をしていたたなぁと自覚する。
まだ眠っているらしいサロモンを傍目に、僕は立ち上がって軽く身体を伸ばした。彼も昨夜からずっと縮こまっているままのように見えるし、そのままでは体も凝ってしまうんじゃないか。
僕は勝手にそんな心配をしながらも、汚れたマントを手で払って魔法を用いて汚れを落とした。
多少質が悪いといえども休みを取ることはできているわけだし、魔法の調子も悪くはなさそうだ。
そもそも、ドロースなんて名前の悪魔については聞かないし、そこまで高名でない以上そこまで強くもないのだろう。だとすれば悪魔を倒すことは容易いはず。
そんな推測を並べながら、僕は彼を見遣る。あどけない寝顔はやはり人間の子供らしいもので、いくら大人びていても、真面目でも、まだまだ未熟なのだろうと思ってしまう。
このまま彼の両親の仇を討って、契約を満了したら僕たちはきっともう離れ離れだ。
彼は悪魔と契約した異端の男として一生その罪を負いながら真っ直ぐに生きるのかもしれないし、もしかしたら開き直って悪の道に落ちるかもしれない。
なんにしたって、彼の行く先に興味を抱いてしまうのだ。このまま彼がどう生きて、どう死ぬのかをしっかり見守ってあげたい。
そんな願望を密かに懐きながらも、眠りが浅くなったらしく彼の目がむずむずするのを見詰める。
彼もそろそろ起きそうだと思って、僕は魔法で温かい紅茶を用意し始めた。その予測は間違っていなかったようで、彼はむずむずさせた目を開いてぼんやりと僕の手元を眺めている。それから紅茶の香りで目を覚ましたらしい彼は、少し目を擦ってから伸びをした。
「おはよう、サロモン。体調はどうだい?」
そう問い掛けると、彼は小さく唸ってから伸ばした腕を下ろした。
「うん……身体が痛い……」
やはりずっと窮屈な体勢でいたのはよくなかったらしい。身体をひねったり、首を押さえたりしている様子に僕は思わず笑ってしまう。
「普段はいいベッドで眠ってるのかい?」
そう問いかけながら僕がミルクと砂糖のたっぷり入った甘い紅茶を差し出すと、彼はそれを何気なく受け取って首を横に振った。
「寝台に毛布を被せてるだけだよ……質素倹約は基本だから」
僕は自分の分として砂糖もミルクもないストレートティーを用意しつつ、その言葉に肩をすくめる。
「難儀だよね、神様を信じるのは」
そう言いながら僕は彼の朝食としてパンとリンゴを手の中に転がすように出現させる。彼はまだ寝ぼけた様子だ。
「ほら、美味しい禁断の果実と難儀な主の御体だよ」
そう言いながらパンとリンゴを渡すと、彼は嫌そうな顔をしてからパンを食った。
「朝からエレオスの皮肉に付き合う気はない、やめてくれ」
冷たいなぁ、そう思って僕は口を尖らせる。つまらないという意思表示のつもりだが、彼は冷淡に僕と目を合わせてからパンとリンゴを平らげた。
「どっちが美味しかった?」
そう問いかけてはみたものの、彼は答えずに口元を乱暴に拭った。やっぱり釣れない。
「忘れたとは言わせないぞ、今日はサン・ラ・ヌイト城に行くんだ」
彼ははっきりした口調でそう述べた。その姿は人間の空想物語や昔の戦争の時に見た勇敢な戦士のようだった。けれど、彼がそういうことを言うとからかいたくなってしまう。
「怖いんじゃないの?」
そう笑うと、彼は僕を睨みつけた。
「とにかく行くぞ、転移魔法でも何でもいいから早く復讐を果たさせてくれ」
僕は仕方ないのでこれ以上の揶揄をやめ、一つ息を吐いた。
「はいはい、じゃあ手を貸して」
彼は無言のまま、僕の手にその小さくきれいな手を重ねた。




