道は開けたぞ、この悪魔!
「召喚ったって、ボクはもうエレオスと契約してるわけだし……二重契約なんてできるのか?」
サロモンは訝しげなまま問い掛ける。僕は誇らしげに笑みを浮かべて答えた。
「契約はできないよ。でも召喚だけならできる。強い魔力があれば強制召喚として強引に魔法陣の上に引きずり出せるしね!それで逃げられないうちに殺しちゃえばいいだけだよ」
彼は納得した様子で頷いたものの、それからすぐに顎に手を当てて考え込むような素振りをした。
「そもそもボクにそこまでの魔力はないと思う」
彼は冷静にそう言い出した。まぁ、彼は"生まれつきの天才魔道士!"なんてわけでもないし、せいぜい敬虔な牧師の息子というぐらいしか特筆すべき点もない。昔から神聖な教会の空気に晒されているかもしれないけれど、元々の魔力もそんなに強くないだろう。彼が悪魔の強制召喚をその素の魔力でできるかというと、きっとその答えは否だ。
けれど、僕もなんの考えもなしに言い出すほどの馬鹿じゃないつもりだ。彼は契約者であるわけだし、その気になれば魔力の共有くらいはできるはず。
「もちろんその対策もするつもりだよ。召喚の時には僕の魔力を分けてあげるから。その強制召喚の手段についてだけど……グリモワール、って分かるかな?」
僕がそう説明してから一つ問いかけると、サロモンは頷いた。けれどその表情はぱっとしない。まだ僕の言いたいことはよく分からないのだろう。
「グリモワール……魔導書?聞いたことはあるけど、あれは禁書だったから見たことも読んだこともない」
やっぱり牧師の息子となると読んだことはないか。当然だろうなと思いつつも、僕は軽く相槌をうつ。
「その通り。一部のグリモワールはよくできたものなんだ。人間の好奇心の最高傑作だと思うよ。でも個人情報ダダ漏れだから、悪魔側からするとちょっと恥ずかしいんだよね……。まぁとにかく、それがあれば悪魔ドロースのことや召喚方法も調べられるかもしれない。パリから離れた田舎の町に、廃墟になった城があるのは知ってる?」
僕はある程度グリモワールについて説明してからそう質問を変えた。あそこの城は恐らく僕が最後に行ってから百年くらい経っているし、しばらく新聞や噂に注意していたものの、目立った動きもなかったはず。順当に行けば廃墟であるはずと思って僕は問い掛けた。
「……サン・ラ・ヌイト城?」
彼はこれで合っているんだろうかというように恐る恐る問いかけてきた。僕は微笑んで頷く。そうすると、彼の顔はあからさまに嫌そうな表情になった。
「あそこは厄介なところだってパパが……いや、聞いたことがある。そもそもそれとグリモワールになんの関係があるっていうんだよ」
彼はいかにも行きたくなさそうだ。たしかに、人間たちの間では噂に尾ひれがついてひどいことになっていたっけ。
"吸血鬼の棲む城で、夜に不用意に近づくと誰であろうが殺される。そこへとある新月の夜、邪悪な角の怪物が忍び足でやってきた。あの吸血鬼を食い殺し、月のない空に飛び去った。誰もいないあの城に残るは恨みと呪いだけ"
みたいに言われていた気がする。僕としてはなかなか面白いと思う。
それにしても、彼のあの賢明そうなパパもそんな話を信じていたんだろうか。
「あそこに住んでたスクレット伯爵は吸血鬼だったんだ。あの城の書庫にはグリモワールも大量にあった」
そう言うと彼は目を丸くした。丸くした目をぱちくりさせて、僕になにか聞きたそうな顔をしている。
「行ったことがあるのか?いや……ていうかその吸血鬼と知り合いなのか?そもそも、爵位を持った吸血鬼……?」
僕は腕を組んで考え込んだ。わけがわからないといった様子で首をひねっている彼に、僕も首を傾けた。
「うーん……知り合いっていうか、なんていうか……」
僕がそう唸ると、彼は怪訝そうな顔をする。
これについて説明するとややこしくなりそうだし、そもそもの僕たちの目的は復讐だ。いくらサロモンが可愛い子だといえども、彼に僕のことを細々と話す義理はない。
「それはどうでもいいんだよ、ドロースの情報が手に入るという事実のほうが大切だからさ。今すぐにサン・ラ・ヌイト城へ!……と言いたいところだけど、お腹空かない?眠たくない?僕はさっきの転移魔法で疲れちゃったんだよね」
彼はまだ訝しげだ。けれど、お腹が空かないかという問いかけに対して彼は細いお腹をさすった。
「少し……空いたかもしれない」
そう頷いた彼に僕は微笑んだ。
「それじゃあ、ご飯にしようか」




