覚悟しとけよ、この悪魔!
はっきりした口調で言ってから立ち上がる彼を見つめ、僕はきょとんとしてしまった。
たしかに言われてみれば、初めて会った時からモナークはこの姿だ。他の人間たちと同じように歪な逆十字の形を取らされているわけだし、この猫が例の悪魔の被害者のうちの一人……いや、一匹である可能性も否めない。
それに加えて、彼がこんなに積極的であることが驚きだったのだ。僕たちを結んでいる契約は"彼の両親の復讐"、すなわち彼の両親を殺した相手に同じ報復として死を与えることだ。僕もそれは承知の上だったから、彼が嫌がろうとも取り敢えず仕事は仕事として済ませるつもりだった。
それは事実なのだけれど、今の彼はその両親にも見放されてしまったのだ。それなのにまだ、健気に復讐に走ろうとするのだろうか。そう思うと何だか奇妙で、僕はぽかんとして彼を見つめた。
「……君って意外とタフなんだね」
そう口にすると、彼も少しきょとんとしてから目を伏せた。
「パパとママ……のための、復讐じゃない。ボクをこんなにした奴が許せないんだよ……パパとママを盾にして正当化してたんだ。結局ボクがむしゃくしゃしてるだけなんだ」
彼は小さい声で呟いた。"パパとママ"なんて愛慕を込めて呼んでいたその声は暗く沈んでいる。あんなことを言われてしまった手前、大好きなパパとママを、自分がそう呼んでいいのかも不安になってしまっているんだろう。
僕はそんな姿を見て目を細めた。
「誰のためだって構わないよ、僕は君の望むように復讐をするだけだからね」
なるべく優しい口調でそう告げると、彼は顔を上げた。
「とにかく、ドロースについて調べる。今のところ手掛かりになりそうなのはモナークだけか?」
弱々しくて憐れな人間のくせに、随分やる気があるようだ。神の名の下にとか、パパとママのためにとかいうわけでもなく、ただただ自分の復讐のためにそうして動こうとする彼の目は澄んで見える。憐れで、可愛くって、その上興味深い子だ。
僕は取り敢えず彼の言葉に頷いた。
「そうだね、今のところは……とはいえモナーク、さすがに自分が誰にそうされたのかなんて分からないだろう?」
そう言って僕がモナークを撫でようとすると、モナークは生意気にも僕の手をふわふわした手で思い切り叩いた。僕、これでも悪魔なのに……。
僕にそんなことできるのは君くらいなんだよと言ってあげたいものの、この猫はそれを伝えたところでそんなのどうでもいいとばかりに毛繕いをするだけだろう。
そこで僕はふと、いいことを思いついてしまった。
「……あっ、そうだ!相手は悪魔なんだよ!」
サロモンは訝しげな顔をして首を傾げた。意味が分からないのだろう。多分そんな彼を前に、今の僕はいかにも得意げな顔を浮かべているだろう。そう自覚しながら、僕は人差し指を立てた。
「つまり、召喚しちゃえばいいんだ」




