敵を討つぞ、この悪魔!
最初は幸先不安だったけれど、こうも可哀想な状況になってしまうとひたすら腕が鳴るばかりだ。あんまり殺生は良くないと思うけど、こんなに可愛いサロモンが言うんなら罪のない人に地獄の苦しみだって与えてあげられる気がする。
そもそも僕たちの敵は悪魔だから、罪が無いわけがないんだけど。
そんなことを思っている間も、サロモンはぐすぐすと鼻を鳴らしながら目元をハンカチで押さえていた。とりあえず落ち着くまではこのままかな。とはいえこの時間の間にもなるべく動いておきたい。
僕は一度立ち上がってから片腕を水平に掲げて、モナークを呼んだ。後ろ足をもがれ、尾に縫合されて奇妙な逆十字架を為した白猫は、にゃあと一つ鳴いてから僕の腕の上を優雅に前足だけで歩く。
モナークに悪魔の気配を探してきてほしいと伝えようと思ったものの、ふと顔を上げたサロモンがモナークを凝視していた。
「この子はモナーク。可愛い白猫だろう?」
僕が気を遣ってそう説明するものの、サロモンはぽかんとしたままだ。猫は苦手なのかなと思いながら、僕はモナークを地面に下ろした。
モナークは、尻を地面に下ろすとその場で毛繕いを始めた。
「その猫……逆十字だ」
サロモンはぽつりと呟いた。僕は目をぱちくりさせてから、モナークに目をやった。
たしかに、言われてみれば尻尾が逆十字にされている。今まで当たり前のように捉えすぎていたせいで気づかなかった。そう気づいて僕は目を丸くした。
「そういえばそうだね」
そう答えつつも、屈んでモナークの尻尾を眺める。そんな僕のことを、サロモンは泣き腫らした目で訝しげに見つめた。
「なんでだよ、お前……エレオスがやったのか?」
僕の名前を言い直してくれた彼に密かに気を良くしながらも、彼の質問には首を横に振る。
「この子は僕が見つけた時にはこうなってたんだよ、路地裏で血まみれになって、足をもがれた上にその足を尻尾に縫い付けられて……。あんまりに可哀想だったから、僕の魂を分けてあげたんだ。それ以来こうやって使い魔として使ってる」
懐かしいなぁ、暗い街の路地裏で血なまぐさい匂いがすると思ったら可哀想な白猫がいたんだから。黒く汚れた白い毛も、小さい身体に似合わず大きく広がった血溜まりも、それはもう酷い光景だった。
何気なくモナークの顎を撫でると、最初は気持ちよさそうにしていたくせに少しすると僕の手に噛みつこうとしてきた。
「おっと……僕はこの子の恩人なのに、こんなに気まぐれなんだよね」
僕はサロモンに苦笑いを浮かべた。サロモンは肩をすくめる。
「ボクが言いたいのはそれじゃない。この猫もボクの敵に……悪魔ドロースにやられたんじゃないかっていうことだ」
彼は僕に真っ直ぐな眼差しを向けてそう言った。




