おままごとだと、この悪魔!
「クララ、今日もおままごとをしようか」
僕たちは二人でそっと部屋に入る。サロモンは静かに部屋の扉を閉めた。彼女の前に腰を下ろした僕がそうしておままごとを提案すると、彼女は微笑んだ。
「うん!そうする!」
「じゃあ、このきつねさんがパパで……猫さんがママで、サロモン君を子供ってことにしようか」
サロモンにちらっと目をやって微笑むと、彼は不愉快そうな顔をした。名前を呼ばれるのはやっぱり気に入らないらしい。しかしここでは彼女の目があるのに気がついて、彼はにっこりと優しく微笑んで腰を下ろした。
「いいよ、それで」
サロモンは優しい口調でそう答える。彼女は嬉しそうにしてから、きつねと猫のぬいぐるみを手に取った。
楽しそうな蔵らを横目に、サロモンは訝しげな顔をしながら僕を見た。こんなことをして何になるんだと言いたげな顔をしている。僕は彼をなだめるように軽く笑みを返し、すぐに彼女に向き直った。
「逞しくなったね、サロモン。悪魔と契約してまで私たちの復讐をしてくれようとは……」
彼女は、きつねのぬいぐるみを持ちながら子供らしからぬ口ぶりで話し始める。僕が彼に視線を向けると、彼は目を見開いていた。困惑した様子で、彼はそのきつねのぬいぐるみを見つめている。
そのまま沈黙していると、クララはまたきつねのぬいぐるみを喋らせた。
「一人残すことになってしまってすまないね」
サロモンは口を開いては、何を言うべきかわからないらしく唇を震わせる。しばらくきつねのぬいぐるみを見つめた末で、彼はか細い声で呟いた。
「……パパ?」
きつねのぬいぐるみは、クララの手に促されてこくりと頷いた。
「そうだよ」
彼女はきつねのぬいぐるみにそう言わせてから、反対の手で猫のぬいぐるみを掲げた。
「サロモン、復讐なんてするものじゃないわ。地獄に落ちてしまうから……私たちはあなたが幸せに生きていてくれればいいのよ」
猫のぬいぐるみはそう喋った。きつねのぬいぐるみはその言葉に同意するように頷いた。
当のサロモンは何も言えずに口元を震わせている。その綺麗な目玉は涙に包まれて、今にもぼろぼろと涙の粒が零れ落ちそうだ。彼は瞬きもせずに、2つのぬいぐるみを見つめた。
「い、いやだ……。許せないんだよ、パパとママを殺したやつが……地獄に行ったっていいから、パパとママの復讐がしたいんだ……」
彼は震える声でどうにかそう絞り出した。きつねと猫のぬいぐるみは、顔を見合わせた。それからきつねのぬいぐるみは俯いて話し始めた。
「私たちを殺したのは悪魔なんだ」
きつねのぬいぐるみは落ち着いた口ぶりで述べた。猫のぬいぐるみは、きつねのぬいぐるみを見つめて少し躊躇うような素振りを見せる。しかし猫のぬいぐるみも顔を伏せ、肩を落として話した。
「サロモン一人で行けばすぐに殺されるでしょうね。……でも、その悪魔と契約したんなら復讐もできないことじゃないでしょう」
猫のぬいぐるみの声は沈んでいた。サロモンは涙でいっぱいの目を僕に向けた。それに気づいた僕と目が合うと、すぐにその目をぬいぐるみの形をした両親に向けた。
ぬいぐるみたちは顔をあげない。二人とも静かに、気まずい空気感をにじませている。
「ど、どうせ……どうせボクは地獄行きなんだよ、悪魔と契約したんだから」
サロモンは震える声でぶっきらぼうに言った。ぬいぐるみたちは顔を上げ、サロモンを見つめる。
「……サロモン」
猫のぬいぐるみはそう彼の名前を呼んで、その先の言葉を制そうとした。しかし彼は聞かなかった。
「ッ……どうせ地獄に行くんなら、落ちるところまで落ちてやるんだ……」
彼は暗い声で続けた。きつねのぬいぐるみは、黒くきらきらしたボタンの目を彼に真っ直ぐに向ける。
「サロモン」
その声に関わらず、彼は続けた。だんだんその言葉の調子には自信と怒りの色が濃くなっていく。
「どうせ相手は悪魔なんだろ?だったらそいつを殺して何が悪いんだよ。……悪魔と契約した挙句に敵が悪魔?味方も敵も悪魔なんて最高に笑えるよね」
彼はそのぬいぐるみたちを見据えた。
「ボクの敵が何者か、教えてよ」
ぬいぐるみたちは、丸く輝く眼で彼を見つめていた。




