とっとと行くぞ、この悪魔!
「まず、スペインの方に住んでる女の子を訪ねる」
僕は人差し指を立ててみせた。彼はまだ怪訝そうだ。
「彼女は五歳の女の子だ。だけど霊媒の才能に長けていてね……まぁ、会えば分かるよ」
そう言うと僕はマントの内側から伸ばした腕を軽く振るって、彼のために礼装の一式を拵えてみせた。なかなか良質な肌触りのそれらを手で掴んでぶら下げつつ、彼にそっと差し出す。
「なんだよそれ」
彼はきょとんとしてしまった。
「相手は五歳の女の子だよ。ボロボロの服を着て目をやたらギラギラさせた男の子が質問に来ても答えると思う?」
彼は不満そうに眉をひそめた。
「子供に懐かれない顔で悪かったな」
そう言いながら、彼は乱暴に服を受け取った。それから僕をちらっと見やる。何が言いたいんだろうと思って僕は首を傾けた。
「見るな」
その一言に、着替えを見られたくないのかと思うと僕は微笑んでからくるっと背を向けた。後ろから衣擦れの音がする。路地裏だからあまり人が来ないといえど、こんなところで着替えるくせに僕には見るなって言うあたりが何だかやっぱり悲しい。
嫌われてしまっているらしいことを自覚しながら、彼が着替えを終わらせるのを待つ。
「終わった」
彼が一言そう言うのにあわせて、僕は彼に振り返る。なかなか良い格好だ。そう思って褒め言葉のつもりで微笑んで述べた。
「馬子にも衣装だね」
しかし間違いだったらしい。
「は?」
キレられた。やっぱり彼と仲良くなるまでは時間がかかりそうだ。そう思いつつ眉を下げる。
「ごめん……」
彼はふんっとつまらなそうにしてから、すぐに話題を変えた。
「その子に会うんなら早く会う。情報を得たらすぐに帰る。とっとと復讐を終わらせて、お前とは永遠におさらばだ」
「さすがに目的がそれってちょっと悲しいってば……こんなに僕とお別れしたがる契約者は初めてだよ」
苦笑い混じりにそう述べつつ、僕はそっと彼に対して黒革の手袋を嵌めた手を差し出した。
「じゃあ……とりあえず契約満了のためにも、スペインに行こう」
彼はあからさまに嫌そうな顔をした。
「悪魔と仲良くおてて繋いで行くのかよ」
僕は頷く。
「手を繋いで、あっちに転移するだけ。少しの間だけだよ。……でも、転移中に間違って手を離すと時空の中で迷子になるかもよ」
冗談のつもりでそう嘘をついて脅してみると、彼は年相応に少し怖がるような顔をした。しかしすぐにその顔を取り繕って、咳払いをした。
「わかったよ」
そう言いながら、彼は離れてしまわないように僕の手をしっかりと握ってくれた。




