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お慈悲をください、悪魔さま!  作者: 真坂凜子
花の都の逆十字
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作戦会議だ、この悪魔!

「それで、サロモン君のパパとママについてだけれど」


 僕が切り出すと、彼は二本指を真っ直ぐに掲げた。


「一つ、馴れ馴れしくオレの名前を呼ぶな。二つ、パパとママはボクのパパとママであってお前の父母じゃない。すなわち馴れ馴れしくオレの父母を呼ぶな」


「えっめんどくさ」


 おっと、ついつい本音が出てしまった。彼は痛いくらいに鋭い目つきで僕を睨みつけてくる。


「ごめん、後で懺悔してくるから」


 そう弁解すると彼はふんっと鼻を鳴らした。


「悪魔が懺悔したところで誰が許すかよ。ていうか何に懺悔するんだよ」


「それはステンドグラスの下で手を組んで主に……って、この話はもっと面倒になるから勘弁して」


 ついつい説明しようとしてしまってから、話が脱線していることを思い出して話を止める。彼はきょとんとして少し興味を示した様子だったが、それを見透かされるのが嫌だったんだろう。すぐにまたつまらなそうな顔をして顔を反らした。


「とにかく君の……父母?は、パリのプロテスタント教会の牧師だった」


「そうだ、カトリック主義のこの国に迫害されていたプロテスタントの信者たちを守って密かに活動していた。……立派な人だったんだ」


 彼は悲しそうに説明する。僕は続けた。


「それが突然、何者かによって無残に殺された」


 彼は頷いた。


「その時、オレはぐっすり眠っていた。朝になって二人がいないことにやっと気付いたんだ」


 僕は顎に手を当てた。

 それはつまり、彼がいたのに気づかなかったということだろうか。もしかしたら気づいた上で二人だけを殺したのかもしれない。いや、そうだとしても何故。


「うーん」


 僕はしばらく悩んでからそう唸り、マントの内側から古い新聞の切れ端を差し出した。


「……なんだよこれ」


 彼はそれを乱暴に受け取ると、怪訝そうに見つめながら呟いた。しかし僕が答える前に、彼は気がついたらしい。


「こ、これ……」


 写真を見つめる目が苦しげに光り、新聞を握った彼の手が震える。


「ローマの新聞だ。かなり前のね。僕のかつての契約者の両親だよ。夫婦揃って逆十字にされてる」


 僕はマントの内側から同じように、さっきよりも新しい新聞を二枚また取り出した。


「こっちは先週の新聞。ブリテン島の方で殺された男性が身体をもがれて逆十字にされたもの。これまた僕の契約者の知り合いでね。そして数日前にたまたま読んだんだけどこれはパリで……君の両親だ、他の皆とお揃いだよ」


 彼は歯を食いしばる。苦しげな顔をしながらも、彼は泣こうとはしなかった。必死に耐える様子が健気で可愛らしい。

 しかし彼は顔を上げ、僕への憎悪を顕にした。


「お前、やっぱりお前がやったんだろ……!お前の言葉が本当だとして、被害者と関わりのある人間とばっかり契約してんだよ!」


 僕は肩をすくめた。


「たまたまだよ。僕を召喚した相手を調べるとみんなこうなんだ」


「嘘だ」


 彼はまた噛み付いてくる。さながら子犬だ。


「もし僕が犯人だとして、復讐を名目に君と契約したら僕は死ななきゃいけなくなるじゃないか」


 あくまで無罪を主張するべく両腕を上げながらそう言うと、彼は黙った。やっぱり子供だなあと思いつつ、ふてくされたように腕を組む彼を眺める。


「犯人の見当はつくのかよ」


 彼は拗ねたようにしながら問い掛けた。


「まあ、ある程度は絞れるよ。まず、僕の知る最初の犯行から随分長く同じ手口が続いてるみたいだし、人間の単独犯じゃないだろうね。それから悪魔召喚の儀式の可能性……これは、僕が悪魔召喚独特の気配を感じなかった時点できっと違う」


 彼はまだ幼く丸い目をぎらつかせた。


「じゃあ誰だ?」


 僕は指を二本掲げてみせた。


「独特な思想を持った組織の犯行か、悪魔やそれに近い生き物のどちらかと見ていいだろう」


 彼が息を呑むのが感じられた。

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