酬いてください、悪魔さま!
「なっ……だっ、はぁ!?はめられたってなんだよ……!」
大きい声を上げてまた魔女たちに怒られるわけにもいかないから、アルフは必死にひそめた声のままで言った。
「うーん、ちゃんと説明してほしい?」
そう質問するとアルフは何度も頷いた。
「要するに、まず……僕はアフタヌーンティーに使った金細工のケーキスタンドに僕の血を分けた。それで金細工のケーキスタンドには魂が宿って、小悪魔マーガレットが生まれたんだ。本当なら僕が魂を分けてあげたわけだから、彼女は僕に従属する使い魔の立ち位置にいるはずなんだけどね」
「それで?」
アルフは腕を組む。
「で、彼女はいわば使い捨ての予定だったんだよ。君との契約が終わったらただのケーキスタンドに戻してそのへんに売り飛ばすつもりだった」
アルフは眉をひそめて苦々しい顔をした。
「俺、使い捨てのケーキスタンドといちゃついてたの?」
「うん」
「マジかよ」
アルフは大きく溜息を吐いた。
「とにかく、彼女はその使い捨てにされるだろうことも察したんだろうね。そうならないように僕から自立しようとしたんじゃないかな……」
顎に手を当てて説明すると、アルフは首をひねった。
「"私の幸せはあなたの幸せ"」
僕はマーガレットの声を真似てみせた。アルフはぽかんとしている。
「君の幸せは、契約上僕の義務だ」
溜息混じりに言うと、アルフはようやくその意味を理解したらしい。
「じゃあ、それはつまり……エレオスがマーガレットの幸せのために動かなくちゃいけなくなってんのか?」
「大正解。それを利用して彼女は僕たちに二人も人を殺させた。弱いなりに人間をちゃちな魔法で操ってね。魂を今夜集まってる魔女たちへの手土産にするつもりだったんだろう。その見返りに魔女たちが今夜呼び戻す悪霊の魂を分けてもらって、それを取り込んで自立する気だったんだと思うよ」
他人の幸せで彼が幸せになるなんてやっぱり人間のお願いにしては現実味がない。僕はもっと率直に彼のしたいことを教えてほしかったのかもしれない。とはいえ、もう今日は最後の日。あいにく今更どうこうできる話じゃない。
アルフは髪の毛の中に指を突っ込み、大きく溜息を吐いた。
「マーガレットに……騙されてたのか……」
憐れみを感じて、僕は眉を下げた。しかし、彼が続けた言葉は違った。
「俺の幸せはあの女の不幸だよ」
彼は呟いた。
「……えっ?」
僕は思わず聞き返してしまった。
「あの女が不幸になれば俺は幸せだ」
彼は強い口調で繰り返した。
「俺を捨てたことを後悔してほしい。エレオスから自立なんてさせてやらない。散々苦しい目に遭って、その末に俺だけが味方だったって気づかせてやるんだよ。最後の最後、あいつが泣いて悲しんでるときに俺が手を差し伸べてやるんだ。そしたらあいつはきっと、もう俺から離れられないだろ」
少しの間、沈黙が流れた。
「随分変わるんだね、三日ごときで」
アルフは答えない。
「……もちろん、それが君の幸せならいいけどさ」
そう答えると、アルフは透明なはずの僕が見えているかのようにこちらを見つめて笑みを浮かべた。
「それでこそだよ、エレオス」
僕は微笑み返せなかった。




