待って下さい、悪魔さま!
二人が山の上の方に着く頃には、夜も九時半を回っていた。薄暗い中で懐中時計を確認して、あと二時間半かと思案する。
その矢先、山の頂上でぼうっと大きく火が上がった。
「うわっ!?」
アルフは驚いてよろめいた。透明な姿のまま、僕はそっとその身体を支えた。
最終日に山ですっ転んで大怪我とか、三日間の幸せを約束してるはずなのに契約違反すぎて洒落にならない。どうにか彼が転んでしまうのを抑えられたのに安心しながら、そっと手を離した。
「あはは、大丈夫?そんなに怖がらなくてもいいのよ」
マーガレットは楽しそうに笑う。アルフは苦笑いをした。マーガレットはそんな彼の手を引いて、頂上へと向かっていく。
「アーっハッハハハッ!!!」
「キャハハハハハッ!!!」
そんな奇声に近いような笑い声が響いてきた。
この笑い声を聞くのは久しぶりだ。でも元々あの手の子たちとはそこまで友好的に関わっていたわけじゃないから、正直あんまりいい思い出はない。
何よりあの子たちは可哀想な状況でもたくましく他人の脛に喰らいつくから可愛くないし。
それにしても、だ。
あの二人分の魂、このお祭り、その楽しそうな笑顔。
思惑はなんとなく分かるけれど、どうできるか分からない。
まあ、どう転んだって万事どうにでもなるか。僕はそう思いながら、二人についていった。
「おやぁ、人間と……悪魔の匂いかい」
「そこにいるのは弱そうな悪魔だね、興味無いよ」
「でもその男は甜そうじゃないの」
火のそばに寄ると、喧騒の中で一部の女たちが二人に気づいた。アルフはそっと彼女を背中に隠そうとしたが、マーガレットはその手を振りほどいて女たちに駆け寄った。
「いい夜ですね、魔女の皆さん」
魔女たちは訝しげだ。アルフも眉をひそめた。
「どういうことだ?」
アルフの言葉に僕は肩をすくめて説明し始める。
「君が知りたいんなら答えるけど……サバトって知ってる?」
アルフはゆっくり頷いた。
「魔女の集会だっけ……」
「そう。今夜ここでやってるのがそれ。今夜のは年に一度レベルで大規模なやつ。悪霊を呼び戻す儀式をしてるんだよ」
アルフは僕の声がする方の空を見つめて目を丸くした。
「なっ、なんでマーガレットがそんなところに!?」
驚いた様子だが、魔女とマーガレットが話しているのに気付かれないように彼はひそめた声で言った。
「だって彼女、悪魔だから」
「はあ!?」
今度の声はデカかった。
「ちょっと、あの男に幻覚を見せたのは誰だい!?ぶつぶつうるさくって敵わないよ!」
マーガレットとお喋りしていた魔女たちがキレた。
「すみません……静かにします……」
アルフは縮こまってしまった。
「彼女は、彼女が生まれた瞬間は見たでしょ?僕の血を垂らしたところ。まあ、階級としては小悪魔だから……って、ナメてたのが良くなかったかな」
「ど、どういうことだよ?」
アルフは魔女たちに変な目を向けられないように腹話術のようにしながら口を閉じて話した。
「うーん、要するに……」
僕は時計を確認する。それから苦笑いを浮かべた。
「僕たち、まんまと彼女にはめられたんだよね」
時刻は午後十時をまわった。




