直也の左
俺の答えを聞いた光輝は心底残念そうにして、言葉をこぼす。
『なら仕方ない……じゃあ、ここは一旦引くことにするよ』
その言葉を発した後おっさんの体から黒い液体が溢れ始めて、おっさんんの体を包み大きな巨人に変化する。もう光輝の声は聞こえてこない、どうやらもうおっさんの体を操作しているわけじゃなさそうだ。
俺は大剣に変えた黒鋼と白鋼をその黒い巨人に振り回す。
だが、切り込んだ巨人の体はスライムのようになっていて途中で刃が止まってしまう。
咄嗟に二本とも引き抜き迫ってきていた巨人の腕を回避する。
「面倒な体質だな。スライムよりか……」
よくRPGゲームでよく出てくる雑魚キャラであるスライムだが、この世界のスライムはかなりの強敵になっている。打撃系、斬撃系の攻撃がほぼ効かないのだ。
スライムを倒すときは基本的に二つの戦い方がある。
「魔法主体の戦い」か「属性魔法を付与した武器での戦い」である。
基本的にはスライムは魔法しか効かない。
打撃系の攻撃は言わずもがな、スライムのプルプルした体にはほぼ意味がない。斬撃系も打撃系の武器に比べると多少ダメージがあるが、切れるわけではなくズブズブと沈んでしまうため微々たるものだ。
だから魔法を使えない近接型の剣士などにとってはスライムは悪魔同然だ。
俺は付与魔法で属性を付与して基本的にスライムと戦うが光輝のことだ、魔法も効きづらくしている可能性が高い。
めんどくさ。この体質は普段の戦い方じゃ勝てない、幻刀も魔力の塊だから効かない可能性もある……七葉や白花さんも含め、このままじゃ手詰まりだ。
「仕方ない……使うか」
俺は確実性を求めた結果、黒鋼たちをしまってちょうど白花さんを助け終わった七葉に声をかける。
「七葉、あれを使う。白花さんを一緒に離れておけ」
「……言っても止めないのよね」
何をするのかわかったのか少し悲しそうな顔をする七葉、その顔をされる理由はわかっているが、勝つためには仕方ない。
俺は左腕を、掌が巨人に向くようにして突き出して左腕に右手を添える。
そして息をゆっくり吐き、魔力を左腕に注ぐ。
すると徐々に左腕に熱がたまり、回路のような青白いラインが腕の全体に回り出し、ラインと同じ色の稲妻がバチバチと音を鳴らして自分の存在を知らしめる。
その稲妻が出るのと同時に全身に激しい痛みが溢れるが、俺はその痛みに耐えながらさらに魔力を注ぎ込む。
「っ……まだ足りない」
少しずつ、少しずつ、痛みに耐えながら魔力を注ぎ込み続け、左腕に現れた熱が全身に回るのを待ってから俺は自分の体にかけていた枷を解くために詠唱を開始する。
「『内なる覚悟を持って我が身に課せられし枷を弾き、獣を解き放つ。我が魂に意味はいらず、今ここに必要なのはすべての敵を打ち倒す獣の牙のみ』」
そこまで唱えると俺の体に変化が起きる。
褐色の肌が少しずつだが右側の肌の色を侵食して広がっていく。
体の構造を作り変える用な感覚に俺は陥りながら、詠唱を続ける。
「『求めるのは…仲間を助け、守り、救う決意の牙なり。今ここに力を示せ』……解・鬼獣「覇道丸」」
最後の言葉で詠唱は完成し、俺の体の変化は顕著に現れる。
白髪の髪は短かったのが長く伸び、肩ほどまでになり肌の色は半分以上が褐色肌、犬歯も伸びて少し牙のように、そして黒い瞳の色をしていたはずの俺の瞳は左が紅に染まる。
装いもかなり変化し、隠密に優れていた黒装束を着ていたが全てを塗りつぶすような黒いズボンとシャツ、そしてその上に陽炎のようゆらゆら揺れているオーラのようにも見える黒いコート。そしてそのコートの上に獣のような爪が装備されている純白のガントレットと狼のようなモールドが入ったグリーヴ、そしてガントレットと同じで獣の足を模したような形状をしたサバトンを装備して俺は巨人の前に立っていた。
俺は自分の手足に装備されているガントレットやグリーヴを見ながら軽く動かす。この姿になるのは本当に久しぶりだ。
『解・鬼獣「覇道丸」』この姿は前の召喚の戦争では使ったことはない、この技のきっかけは光輝との戦いで自分の左半身に封印した神の力が俺の力と混ざった結果生まれたものだ。完璧に神の力というわけではない。
封印した神の力は戦いが終わった後、暴走しかけていた力を覡の力を持つアルメリアとともに再封印したが、その力を限定的にでもいいから引き出せるように工夫をした結果生まれたのが覇道丸だ。
侵食を防ぐためのフィルターの役割を持つ封印を一部解き、神の力を自分の鎧のような感じで魔力と混ぜて纏わせる。だがその場合だと体が耐えられないのでそれと同時に左の力を体の方にも流し体も強化する。
能力としてはシンプルで身体能力や魔力容量の超強化、そして個人魔法の強化である。
ただ、難点としては体力の消費がアホみたいに激しいのだ。身体強化や付与魔法で体力関係の魔法を使用しても制限時間が五分だ。それ以上この状態を維持すると侵食が始まり、力が完全に暴走する。
そしてこの状態の戦い方は……切れ味が凄まじいガントレットの爪とサバトンを使ったシンプルな肉弾戦。
「あれ?思ったより簡単にダメージを与えられたな」
俺はガントレットに付いた黒い液体を振り払いながら手刀で切り裂いた巨人の右腕を見ながらそう呟く。
巨人は何が起きたのかわからないような様子で声にならない声を上げている。
おっさんの体を軸にできている巨人はスライムのような体質だが、予想ではおっさんの体を軸に巨人の体を生成している。予想どうり再生できていないところを見ると軸のおっさんの体を攻撃されると黒い液体でできている部分を生成できないのだろう。現に今切り離した右腕はおっさんの体と一緒に切ったので再生できていない。
「……対処法はわかった。一気に終わらせよう」
俺は両腕のガントレットに、右には魔力を、左には封印されている力の一部を注ぎ込む。すると右手には俺の魔力の色である黒い色の魔力が、左には封印されている力の色である青白い光がガントレットから溢れ、炎のように吹き出す。
俺は両腕を引きしぼり溢れ出て炎のようになっている二色の力をさらに収束させる。
「『我が身に宿りし獣の牙よ、今ここでその牙を向け。その対象を喰らい尽くせ』……幻刀蓮華・「顎門」!!」
俺は技名を口にしたと同時に引き絞った両腕を振り抜く。
すると収束されていた俺の黒い魔力の塊と青白い光が飛んでいき、一つに合わさり灰色の狼の顔を模したようなエネルギーの塊になって巨人を飲み込む。
そのエネルギーの塊が消える頃には巨人も、その軸になっていたおっさんの体も全て消し飛んで、巨人がいた場所がえぐれるような感じで凹んでいる場所を見ている俺だけだった。




