ため息とお話し
「それで……白花さんの心へし折りかけたのね」
「う……」
現在、俺は七葉に説教を受けていた。
言わずもがな、先ほどの訓練の時の話である。
「……あなたのようにならないために白花さんを諭したのはいいけど、これじゃあ下手したらあなた嫌われていたわよ?」
「別に、それで日本に返せる人が増えるのなら俺はそれでもいいよ」
七葉の言葉に俺はそう答える。
そもそも、この世界の問題に別の世界の人間を関わらせることがおかしいことで、戦争がなくなった今は本来なら日本に返さないといけないはず。
この世界と関わりがある俺たちならまだしも、クラスメイトは親御さんとかが心配してしまう可能性もある。
昔の召喚陣は時間経過はなかったが、七葉の調べたところでは向こうの世界の時間が経過している可能性があるらしい。
ただ現在帰還用の魔法陣を七葉が作っているができるのはもう少し時間がかかるとのこと。
それまでの間、この世界を楽しんでもらうために現在は学園で魔法などを学ばしているらしい。この世界でしか使えないけどいい体験にはなるだろう。
まあ、七葉が聞いた話では天川やその親衛隊がド派手に暴れているらしいのが少し問題らしい。今は観察のみらしいが、いずれ国に戻すそうだ。
「何やってんだよ……」
天川の話を聞いた俺はため息をつく。
多分、自分が異世界に召喚された勇者になったから浮かれているんだろうなあ……
まだ神器と契約、そして聖剣を手に入れていないのならまだ普通の魔力が多い人間と大差ないのにな。
「中二病になりやすそうな状況だし、止めるはずの役割の佐々木先生もまだこの世界の常識に慣れていないからとめかたがわからないみたいなのよ」
「お前が教えたらいいだろ?」
俺の意見に七葉は本気で嫌そうな顔をする。
「嫌よ。この世界の常識をすぐに知っている私たちに聞けばいいものを何も聞かず、こっちの世界では大人なのに酒飲んでいただけで注意されるのよ?」
「それはお前が飲みすぎるからだろうが。最後以外の場所は同意するけどよ」
「「はあ……」」
二人してため息が出てしまう。
アイズにある研究所の破壊、元の世界に帰るための魔法陣の準備(これは七葉だけ)、少しずつ暴走気味になっているクラスメイトの案件……俺も七葉もこの世界に戻ってきて、戦争を止めるだけであとは楽な感じになると思っていたのに忙しすぎる。
俺と七葉はまた深いため息を吐いた。
♢♢♢
クラド帝国の王城の一部屋で一人の少女がベットの上で毛布にくるまっていた。
白崎鈴である。
彼女は直也に訓練場で剣に込めるものを問われた後、部屋に戻ってからというものシャワーも浴びずにベットの上にうずくまっていた。
「……伊澄くん」
彼女はそっと呟き、先ほど自分に言っていた直也自身が剣に込めているものを思い出す。
『死んでいった仲間たちの意思と、守れなかった自分への嫌悪感と復讐心だ』
直也は彼女に向かってそう言った。
冷たい無感情な、機械のような声でそう言ったのだ。
顔も死んでいた。名は一切の光を通さないほど深く、ドロドロした何かがあって底が見えないほどに。
きっとそれは彼が中学二年から6年間、ただの少年であった彼が経験からなのだろう。
「嫌悪感と復讐心、か……」
いったいどれだけのことを経験して来たんだろう。
少なくとも、平和な国で生活してきた鈴自身では絶対経験して来たことがあった。それに前に聞いた直也の話の中で、当時恋人関係にあった人が死んだと聞いていたことも思い出す。
『恋人の死』
しかもそれは目の前だったことも聞いていた。
多分それだけではないのだろう、たくさんの仲間も死んだとも聞いた。
戦いに身を投じたのは6年間のうちの四年間。
年齢的には今の私たちとおんなじ、もしくは幼い時期に、信頼している仲間や恋人を亡くしたことになる。
それに、戦い殺してしまうことになった仲間もいたらしい。
そんな人の役に立とうと思っているだけで本物の武器を握ろうとしたことを彼女は後悔した。
「やっぱり、私には無理なのかな?」
彼女の中に、あったものが少しずつヒビが入っていく。
そんな彼女の部屋の扉に声がかかる。
「白花さん、少しいい?」
声の主は七葉だった。
いきなり七葉が部屋にやって来たのに驚きながら扉を開ける。
扉を開けたら寝巻きらしき服装に着替えていた七葉が立っていた。
「少し、いいかしら?」
♢♢♢
鈴が七葉に連れられて来た場所は直也の昔の話を聞いた時と同じテラスだった。
いきなり連れてこられて戸惑っている鈴に七葉は話しかける。
「今日、直也に心へし折られかかったのね。直也から聞いたわ」
「うん……」
七葉の質問に答える鈴。
そんな姿を見た七葉はテラスの手すりに手をかけながら、話を続ける。
「あれでもあなたを心配してあんなことを言ったのよ?もう俺たちみたいな奴らを出すわけにはいかないって」
「え?」
七葉の言葉に鈴は驚きの声を上げる。
『俺たちみたいな』
その言葉に鈴は聞き返す。
「なにがあったんですか?」
鈴の言葉に少し考えるような仕草をした後、「まあ、あなたならいいか」とつぶやき話し始める。
「最初の異世界召喚で初の実戦の時私たちは直也を含め全員で戦争に参加したんだけど、私たちを警護する人としてこの世界での初めての知人で、直也の剣の師匠である人が同行したの。その時の編成的に直也とその人は前線だったんだけど、不甲斐ないばかりに直也とその人以外の人は初めての実践で怖気づいちゃってね。その時に私たちを逃がすために直也とその人は殿を務めることになって……」
「もしかして……」
そこまで聞いたところで鈴は呟く。
彼女の予想だに答えるように頷き話を続ける。
「そう、直也自身は死にかけて師匠の方は死んだそうよ……直也の目の前で首をはねられて」
師匠だった人が死んだ。
その時本人はどんな気持ちだっただろうか。
戦闘が始まるまで話していたはずの人が今は物言わぬ首になるのは鈴には想像ができなかった。
「一番仲の良かったのは直也だし、なんとか生き延びた後も大変だったのよ?師匠が死んだのは自分が弱かったからだってほとんど寝ずに訓練や一人で迷宮に潜って魔法の勉強して、この世界のポーションは体を修復までしてくれるからって体壊れるまで続けて、ポーションで回復してその繰り返し……仲間の心配も聞かないでね」
悲しい顔をする七葉。
「そんな感じなのに、私たちのことは人一倍気にして世話してくれて…自分のことなんか二の次で、こっちの世界での父親みたいな感じだったわ。自分は仲間が死んだりしたら他の仲間のケアをして、一人で拳が壊れるくらい岩とか殴り続けて、自分を責める。何でもかんでも背負いすぎなのよ、直也は」
「……」
七葉からの話を聞いて鈴はさらに自分の考えがおこがましいことだと下を向く。
そこまで仲間思いで、優しすぎる人になんとなく「役に立ちたい」という考えだけでそんな経験してきた人に世話を焼こうとするなんてと思っていた。
でもそんな思考に陥っていた鈴に七葉は少し意外な言葉をかけてきた。
「あなたみたいな子がいてくれたこと、私は感謝してるわ」
「え?」
「だって私や他の仲間たちではどこまでいっても『守られる立場』、あなたみたいに役に立ちたいって直也を『守る立場』になろうって思っている人がいてくれたことは私は素直に嬉しいの」
『守る立場』
直也がその立場になってもその逆の守られる立場。
仲間を失わないためにその立場になり、仲間たちには一度も譲らなかったと七葉は鈴に話す。そして祐一直也が同じ立場になることを許したのは最初の戦争で死んだ恋人である魔王アルメリアだということも教えてもらう。
「私たちはあの時は悔しかったわ。何年も戦争を戦い抜いてきた仲間より、いきなり仲良くなったアルメリアが直也とおんなじ立場に成り上がったんだもの。でもそれと同時に安心したのよ、彼女なら直也を支えてくれるって。……でもそれは叶わなかった」
「アルメリアさんの戦死ですよね?」
「そうよ。彼女のまた、最初の師匠とおんなじように彼の目の前で死んだわ」
鈴の言葉に肯定して七葉は頷く。
「あの時の直也は本当に見ていられなかったわ。まるで死人みたいな無機質な顔をして敵を無感情で屠る機械のようだった、しかも戦争が終わって奴隷の解放をしながら私たちに黙って要注意人物を監視しながら、時には暗殺をしていたんだもの。私たちはどれだけ頼りないと思われているんだ!って何度か対立をしたりもした」
「なんとかアルメリアの死から日本にも戻って普通の生活をして、なんとかそのことを乗り越えて、高校に進学してまたこの世界に呼ばれることになった。また直也に主に主にを背負わすことになって少し後悔しているの」
そこまで言って七葉は鈴の方を見る。
「でも、あなたが直也の力になりたいからって私に弟子入りした時は素直に嬉しかった。だから今日はそのことを話しておきたくてね。だからありがとう、直也を気にかけてくれて」
お辞儀をしてそこまで行った七葉。
その姿を見た鈴は少し固まった後、すぐに七葉に顔を上げるように話しかける。だが、すぐには七葉は顔をあげなかった。
顔をあげないまま七葉は真剣な声色で話し始める。
「白花鈴さん、私はあなたみたいな子に直也を任せたいの。直也の内側を見てそれで真剣に悩んでくれているあなたに。お願いできるかしら」
「でも私は……」
「覚悟が足りないとか言うのなら、そんなことはないと思うわよ。覚悟が足りなかったら直也は今日心を折りに行かないと思う、直也は何か考えがあってあなたに剣に込めるものを言ったんだろうし」
「……」
「それに、あなた直也のこと好きでしょ?」
「ヘぁ?!」
いきなりのことに鈴は顔を赤くしてしまう。
その姿を見て七葉は「やっぱり」と言って笑う。
「お願いできない?白花さん」
「えっと、その……はい……」
なんとも言えない雰囲気で直也のことを任された鈴である。




