妹分との勝負・決着
魔族領と人間領の境界にある魔族の街、カイエの領主の屋敷の訓練場でとんでもない騒音が鳴り響いていた。
何を隠そう、領主であるルーと直也が戦っているからだ。
現在その訓練場の中では様々なものが飛び交い、激突するたびに周りに衝撃波を生んでいた。
ルーが愚者の鎖を躱し、自分の魔法で直也が放ってきた銃弾と化した鉄の剣達を撃ち落として細剣を振るってくる。直也もルーが振るってきた細剣を受け流しながらクロスを振るい、銃弾でルーの魔法を打ち消し、愚者の鎖で高速しようと鎖を飛ばす。
お互いに全く引かず、引こうともせずにお互いに傷だらけになりながらお互いに武器を振るい、笑いながら戦っている。
大きな金属音を鳴らしてお互いに武器を衝突させて、鍔迫り合いを始める二人。
「随分と強くなったな。ルー」
「あなたこそ、ただでさえ出鱈目だった強さだったのにさらに強くなってるなんて……いい加減にしてよ。追いつけないじゃない」
「当たり前だ。お前が成長する分、俺も成長するんだからな…な!」
そう言って直也はルーの細剣を鍔迫り合いから吹き飛ばして隙を作る。
できた隙に直也は銃弾をルーに向けて放つ。
だがその銃弾と化した鉄の剣はルーを捉えることはなく地面を抉るだけだった。
直也は「空に浮かぶ」ルーを見て、笑う。
「やっと羽を出したな。ルー」
「流石に厳しくなってきたからね」
そう言ってルーは自分の背中にはえたコウモリの羽を見る。
ヴァンパイア……魔族の中でも血を使った「ブラッドマジック」を使うことができ、長命種である種族だが、コウモリのような羽があり空を自由自在に飛ぶことができることもこの種族の強みである。なぜなら空からの一方的な攻撃ができるからだ。
だが……
「空を飛び始めたからようやく後半戦かな?」
「そうね。でもあなたも飛べるでしょう?」
「俺の空步は飛ぶより蹴るって感覚なんだけどな」
直也はそう言って空歩を使って空に飛び上がる。
周りにはまだ沢山の装填された鉄の付与剣、そして愚者の鎖が直也の周りに浮いている。
その姿を見たルーは少し面白いものを見たように笑った。
「改めて見ると、ナオヤって勇者っぽくないわね」
「うっせ、俺だって思ってるんだから言うんじゃねえよ」
クロスを構え直し、ルーと相対する直也。
それに応じるようにルーはさらに自分の血で細剣をさらに一本、追加して構える。
「「それじゃ、第二ラウンドと行きますか(しょうか)」」
二人の声が重なった瞬間、また衝撃波が生まれ始めた。
♢♢♢
それからしばらく経って、訓練場の状態を見るとあちこちにヒビが入り建物の壁があちこち崩れていた。地面は荒れ果てていて戦いが始まる前の綺麗な地面の姿は見る影も無い。
そんな訓練場の中で二人の男女がいた。
女は肩で息をして必死に息を整えていて、男は息は乱れてはいるがまだ余裕がある感じがあった。
「なんでそんなに……余裕そ、う……なのよ」
「剣の勇者舐めんな。近接戦では俺は四勇者の中では一番の力を発揮するんだよ」
剣の勇者は他の術の勇者、弓の勇者、光の勇者の中では最高の近接戦闘能力を誇る。
魔法は強化魔法と付与魔法以外は使えず、バランス型の光を扱う光の勇者、魔法特化の術の勇者、遠距離特化の弓の勇者と比べて魔法も地味な部類であるが実は他の三勇者よりはシンプルで昇華させやすく、何よりバランス型の光の勇者より近接戦に関しては圧倒的に強くなる。
最初の召喚の時に直也は自分の特性を他の三人より早く理解し、昇華させていた。
直也が昇華させて手に入れたのは、付与魔法と身体強化魔法を同時に使い二つの魔法の効果を同時に引き上げる「合成魔法」だった。
この合成魔法は身体強化で強化した自分自身を付与魔法でさらにその効果を増加させる。
使い方は多彩、単純に身体強化魔法の効果増加増幅の他にも強化した身体から放たれる攻撃に属性系の付与魔法を乗せて、その攻撃に追加攻撃をつけることもできる。
直也の思いつき次第でその合成魔法は性質を変える。
今回の体力の余裕さも、その合成魔法の賜物だった。
体力増加の付与がされた身体に、体力消費の軽減をさらに付与した直也の体は体力の消耗が少ないのである。今回の体力の余裕の差はこのためであった。
「次で終わりかな?」
「そう…ね。。さすがに体力がもう持たないみたい……次で終わりにしましょう、私が今出せる全力をあなたにぶつけるわ」
直也の言葉に呼吸を整えながら答えるルー。その瞳にはまだまだ戦いたいという闘志が宿っている。それに答えるように直也もクロスを片手から両手に構え直しニヤリと笑う。
「わかった俺も奥の手を出そう」
「行くわよ」
ルーは自分の左手に、直也はクロスに魔力を集中させて最後の一撃を放つための準備に入る。
すると直也の口から普段なら絶対聞かない口調が聞こえた。魔法の詠唱である。
「『呪え呪え己の弱さを・そしてそのちっぽけな力で敵を打ち倒せ・守りたいものを救う英雄の一撃を』」
そう詠唱した途端な親の雰囲気がガラッと変わる。
一気にルーにドンと強い衝撃のような大きなプレッシャーがのしかかり、ルーも目を見開く。
その姿を見ながら直也は笑い、その笑いに答えるようにクロスも魔力に反応して直也の黒い魔力を刀身に纏っていく。魔力を纏ったクロスは禍々しさよりも、荘厳さの方が強く出ていた。
そのクロスを上段に構え、直也はルーに声をかける。
「いくぞ?ルー」
「ええ、いくわよ。……『ブラッドランス』」
直也の言葉に答えながらルーは、自分の左手に集中された魔力で自分の血を混ぜた魔力の槍を整形する。
「ブラッドランス」、ルーが使える最高威力のブラッドマジック。
魔力を混ぜ込んだ血の槍を対象に向けて突き、その魔力を光線として放つ魔法である。
「行くわよナオヤ……吹き飛ばしなさい!『ブラッドランス』!!」
そう叫んで真紅の光線を放つルー。
その一撃を見た直也は笑って、自然にクロスを振り下ろしながら小さく呟いた。
『幻刀・結月』と。
振り下ろした瞬間、ブラッドランスより何十倍もの黒い魔力の塊がルーに迫る。ブラッドランスもかき消して、ルーを飲み込んだ。
数秒後、訓練場にあった光景は気絶したルーと自然にクロスを左右に振り払い、腰の鞘に収めている直也の姿だった。




