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第二十六話 正念場

 まず、前回の更新から一週間以上の期間が空いてしまい、申し訳ありませんでした。


 最長です! といっても、4000文字ちょっとですが。


 いよいよ、サブタイトルにもあるように正念場、です。あまり、上手く書けていないかもしれません。

 わかりにくい、などという意見ありましたらどんどんお寄せください(今更ですが)

 やっぱり、この世界は嫌いです。


 私は、何か薬のようなものを嗅がされて意識を失う前の出来事を思い出し、心の中でため息をつきました。実際に息を吐き出さなかったのは、口に貼られたガムテープのせいで口が塞がれていたからです。

 変な男の人に声をかけられて、あっという間に連れ去られて今、私がいるのは車の中。

「手荒に扱うなよ。そいつは俺たちにとって大事なものなんだからよ」

「わかってるさ。」

そう言って笑い合う男たちの声が思い出されます。

 大事なもの。そう言われたって、なんにも嬉しくありません。私は、こんなことになるためにマンションを飛び出したわけではないんです。

 体を見ると、せっかくシャワーを浴びたのに汚い社内の床に直接寝かされているせいで、所々に汚い泥のようなものがついていました。帰ったら、もう一度シャワーを浴びたいです。

 帰ったら――私は、帰ることができるのでしょうか。このまま、殺される、なんてこともあるかもしれません。

 そう思ったときに、一番に思い浮かんできたのはわるものAさんの顔と、鈴さんの顔でした。

 二人は心配してくれるでしょうか。そこまで彼らに思っていて欲しい、そう願っている自分に気づき少しだけ、悲しくなりました。

 きっと、それは私の描いた幻想ですから。

 そして、私は友達(・・)のことを思いました。きっと、彼らは「もえぎ」が戻ってくるのを待っていてくれるんだろうな、と。

 あんなに嬉しかったことなのに、それが今はすごく虚しいものに感じてしまうのは、なぜなんでしょうか。いいえ、わかっています。

 私だって、心のどこかでわるものAさんが言ったことを、認めていたのですから。

 なんだか、久しぶりにこんなに考え事をしたら疲れてしまいました。少し眠っても、大丈夫でしょうか。

 そう思った私が、目を閉じた時でした。


「――10:23分。時間きっかり、と。おい、柏木萌葱を迎えに来てやったんだが?」


 静かに、けれども車内の私の耳にも届く深い声が聞こえてきたのは。


「――っ!!」


 どうしてですか? どうして、私のことを?


「そりゃ、お前。保護者、だからな。」


 聞こえているはずのない疑問に返ってきたのは、確かに彼の声。

 あなたの子供になんて、なった覚えはありません。そう叫びたくて、何故と問いたくて顔を上げた私の目に映ったのは、男たちが開け放したドアの向こうに立つ彼の姿。

 男たちよりも、よっぽど悪人面をした彼は、


「とりあえず、次はラーメンの作り方でも教えてやるよ。」


――ラーメンだったら、一人でも作れるだろ?


 そう言って笑う彼の姿を、私は最後まで見ていることはできませんでした。


「だから、帰ろうぜ。萌葱。」


 どうしようもなくぼやけてきた視界。それでも、私が願ったことをいとも簡単に言い、手を伸ばす彼の姿が確かに映っていました。



  *


 両目から涙を流す萌葱の姿を見て、俺は密かに胸中で安堵の息を漏らした。どうやら、手荒に扱われていたわけではなさそうだ。少し、汚れてはいるが。

 それにしても、


「お前ら、頭悪すぎじゃないか?」


 見るからに雑な人払いを済ませた公園を見渡した俺はそう呼びかけた。(すべての入口に車を停めただけって、怪しいことこの上ないんだが)


「何言ってんだ、お前。今の立場、分かってんだろうなぁ?」


 お前ら、が誰を指すのかにようやく気づいた男たちが、凄みを利かせた睨みをくれるとともに、萌葱に視線を投じる。

 男たちの仲間の一人に乱暴に立たされた萌葱は、苦しそうな表情をしていた。


「事実だろ? 大体、お前仲間少なすぎないか? 俺が警察呼ぶって考えなかったのか。」


俺は、1、2、3。と、何度数えてもそれ以上の人影が見えないことを指摘すると、男たちのうちリーダーっぽい奴が、

「警察に通報したら、こいつを殺すって言ったはずだ。」

「あぁ、そういえばそうだったな」

 もちろん、覚えている。忘れるはずはない。

「それにしても、もう少し場所を選べなかったのか? こんな住宅街に近い公園なんて選んでよ。それに、車で」


「うるっせぇな!!」


 男たちの行動を指摘していると、リーダー(仮)がついにキレた。

 鋭い声で(ここ、住宅街の近くだって忘れてるだろ、絶対)怒鳴った男の手には、ナイフが握られている。その切っ先が萌葱の喉に当てられているのを確認して、俺は言葉を切った。ここは、素直に言葉を聞いておいたほうが良さそうだった。


「そんなことはいいから、金を出せ! 金を!」


全く、気が早いな。仕方ないか。

「それは、いいんだが。それよりお前らは考えなかったのか? 一億なんて簡単に用意できるぞ? 社長令嬢だしな。もっと、要求しようとは思わなかったのか?」


「・・・・・・」


 呆けたように口を開き、黙る男たち。その沈黙を見て、俺は自分の推測が正しかったことを知った。

「なんだ、お前ら知らなかったのかよ。こいつはトライアングル・フェニックス社の、社長の娘だぞ?」

こいつらは、そうとは知らずに彼女を誘拐したのだ。

 遅い時間の街中を、たった一人で彷徨っていた見るからにか弱そうな女性。極めつけに、マンションから出てくるところを見ていたのなら、それだけで誘拐に踏み切る理由には充分なる。

 1億円、という要求を見たとき俺は思ったのだ。少なすぎないか、と。そりゃあ最初は多いと思った。一般人の感覚で、1億なんて額は多すぎる。だがそれは一般人なら、の話だ。

 柏木萌葱はトライアングル・フェニックス社の社長令嬢であることを踏まえたとき、1億という額は、とたんに少なく感じてしまうのだ。そこまで考えて、俺はある仮定にたどり着いた。

 柏木萌葱が社長令嬢であることを知る人物は、少ない。俺だって、考えたら昨日知ったばかりの事実なのだ。なんの関わりのない一般人が知ることができる可能性なんて、あるのだろうか、と。

 知らないのだとしたら、こいつらの不可解な行動も理解ができる。人払いが雑なのも、人数が少ないのも、場所がこんなところなのも、奴らにしてみれば一般人を誘拐、人質と身代金交換、逃亡。なんていう簡単な展開になることを予想したからであったのだろう。

 それが実際には社長令嬢を誘拐したことになっているのだから、ここまで長い沈黙をされるのも、解らなくはなかった。そして、その沈黙から戻ってきた男は


「とにかく、金を出せ!」


 そう怒鳴った。結局のところ、逃亡に成功すればいい話だし当然といっちゃあ、当然の反応だった。

「金は、もう一人の仲間が持っている」

静かに言った俺の言葉に、顕著な反応を見せたのは、ずっと俯いたままだった萌葱だ。

「連れてこい。」

「萌葱を返してもらえるなら、な。」

「ふざけんなっ! そしたら、」

「逃げるに決まってる、ってか? そんなことするわけないだろ。俺と萌葱がここから逃げようとしたところで、逃げきれる可能性は低い」

俺は、俺が入ってきた途端に車で塞がれた入口を見て言った。その入口がなくなったことで、4つあった入口は全て車で塞がれた。つまり、俺たちは袋の鼠というわけだ。だが、まだ男は納得していないようだった。

「あと、逃げようとする俺たちを殺しても、金は入ってこないぞ。金を持ってる奴には、俺たちが呼びかけなかったら、逃げるように言ってるからな。だったら、確実に金をもらえる方法を選んどけよ、な?」

にやりと、人の悪い笑みと萌葱や鈴に称された笑みを浮かべると、男は暫く黙考した結果、

「わかった、だが逃げたら、わかってるな?」

「もちろんだ。」

取引成立だ。俺は、こちらに乱暴に突き飛ばされた萌葱を受け取ると、その口に貼ってあったガムテープをゆっくりと剥がしてやる。

 ようやく、普通に呼吸できるようになった萌葱は小さく咳き込んだあと、口を大きく開けて


「――っ――」


 何かを叫ぼうとしたのを、俺は手のひらでその口を覆うことで止める。

「今は、黙っててくれ。あとで、文句ならいくらでも聞いてやるよ。」

暫く、んーっ、んーと言って抵抗していた萌葱が、おとなしくなると同時に、

「早く、その仲間とやらを呼べ。」

「仲間は、いない」

「は?」

怪訝な顔をする男たちのうちの一人、その背後を見ながら俺は言う。

「強いて言うなら、先輩だな」


「婚約者、でしょ!」


 力強い声と共に、そいつの背後から現れた音無先輩が、そいつの頭をスーツケースの角で殴り飛ばす。

 いくら、女性の細腕だといっても中に目一杯札束(千円札だけど)が詰められたスーツケースで殴られたら、ひとたまりもない。

 殴られた男は、そのまま昏倒する。奇襲を成功させた先輩に対し、俺はというと。


「――はあっ!」


 咄嗟に萌葱を後ろに突き飛ばすと、体を前に滑り込ませリーダー格の男の手を蹴りとばす。

 がっ、という音と共に飛んでいったナイフの煌きを確認しながら、俺はさらに拳を突き出す。狙うは、唖然としている男の鳩尾。

 俺の渾身の一激が叩き込まれるとともに、ひゅっ、という短い息と涎を口の端から漏らしながら、男が崩れ落ちる。その後頭部にとどめの踵落としを叩き込むと、俺はようやく動きを止めた。

「萌葱ちゃんは、無事ね?」

「当たり前だ。」

そんな会話を交わして、俺は後ろに突き飛ばした萌葱の安全を確認してからただ一人残った男に視線を送る。男は震えながら、あっさりと倒された仲間を見下ろしていた。

 と、そこに男にとっては絶望を告げ、俺にとっては福音のようなその音は聞こえてくる。

「な、くそっ! 警察は呼ばないって約束じゃなかったのかよ!」

「約束? 破ったつもりはないけどな。俺は、警察なんて呼んじゃあいない。俺はただ友達(・・)にメールしただけだぜ?」

夜の静寂を切り裂きながら聞こえてきたサイレンの音。

 俺は、パソコンからついさっき送ったメールを思い出す。

 いつだったか、本当に偶然手に入ったある警察官のメアド。


『今から、○○公園でヤっちゃうぞ☆』


 そんな文面と萌葱の写真(気を失っている)を送られたら、あいつじゃなくても署を飛び出してくるに決まってる。

 だんだんと大きくなっていたサイレンの音が、ついには耳が痛くなるほどまでに近づいてくる。やがて、車が停車する音を聞いたときに、俺は蒼白な顔をした男に言う。


「「観念しろ」」


 奇しくも、それはドアが開く音ともに聞こえた、あいつの野太い声に被っていたが。




ありがとうございました(^^♪


ちなみに、一箇所次回への伏線的なもの張ってあります。


感想、評価、ダメだし、どんどんどうぞ!

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