第二十五話 柏木萌葱の物語2 そして動き出す事態
頑張りましたが、ちょっと無理があるかもしれません(いつものことですが)
変人。
私が言うのもアレですが、わるものAさんはまさに変な人でした。いいえ現在進行形で変な人です。
まず名前がおかしいです。わるものAなんてまるで雑魚い敵キャラです。本人は本名だって言ってますけど、きっと偽名だと私は睨んでいます。
あの人はとても不思議です。なんでも知っているのに、何にも知りません。
いつだったか、雪を見て私以上に感動していました。南国の国から来た外国人みたいにキラキラとした笑顔で窓から手を出している姿は、なんだか新鮮で、笑ってしまったのを覚えています。
それなのに、雪はどうやってできるのかとか、雪の種類を全て知っているんです。おかしいですよね。
ええと、何を言おうとしていたのでしょう・・・・・・? ぁあ、そうです。とにかく、わるものAさんはおかしな人なんです。
いつだったか、わるものAさんはこの家を出ていこうとしました。私には自分は必要がない、そう言って。
私には月に一回両親から仕送りがあります。20万――マンションの家賃は母さんたちが払ってくれているので、その20万は純粋に生活費として送られてきます。
だから、本音を言えばわるものAさんはいてもいなくても同じことでした。一人で生活するのだって、今までどおりやっていけばいいことですし。
なのに、気づいたら腕が伸びていて必死にあの人を引き止めていました。
そして私は言いました。わるものAさんが『必要』だと。それは本当です。
それまで、私にとってのわるものAさんは、正直に言うと優越感を抱きたいがために存在しているだけだったんです。
彼は今にも死にそうな顔で倒れていました。それを自分が助けた、そう思うことがすごく気持ちよかったんです。
けれど、その日からわるものAさんは、私にとって本当に必要な存在になったんだと思います。
けれど、それまでの私は自分のために――自分の自己満足のためだけに行動していただけです。
最初に出会った男の人も、お金が必要、そう言っていたからお金を渡して、形ばかりの『ありがとう』に心底満足していたんです。
鈴さんはこの間、私に救われたと言ってましたが、本当は救われていたのは私だったんです。
私は身勝手な女なんです。
さっきだって、ネットを否定されただけで怒って、わるものAさんを追い出しました。
でも、ネットは私にとって大切な居場所なんです。もう、私にはあそこしかありません。
それなのに、今更誰かに必要としてもらいたくて、わるものAさんに出会って。彼が倒れているのを助けて。その彼が教えてくれた現実をやっと楽しく思えてきたのに、また失敗して。
思い出すとまた涙が出てきました。ずっと扉に押し付けている背中が、すごく痛くてじんじんします。
パソコンの画面はずっと消えたままです。
私はそれにゆっくりと近づき、画面をクリックします。しばらくして映ったのは日記です。
無言のままそれを閉じると、私はインターネットを開こうとし――ふと、時間表示が目にとまりました。
9:03――もう、こんな時間なんですね。わるものAさんはどこに行ったのでしょうか・・・・・・私は、自分が無意識のうちに立ち上がっているのに気づきました。
何をすればいいのかは、全く思い浮かびません。わるものAさんに会ってどんな顔をすればいいのでしょう。謝ればいいのでしょうか。それとも、怒ればいいのでしょうか。
わかりません。けど、このままではいけない。そんな気がして私はドアに向かって歩き出しました。
――わるものAさんを探すために。
『柏木萌葱は誘拐した。』
「は・・・・・・?」
俺は短いその一文を見たとき、思わずそんな声を漏らした。現在時刻10:23分。夢を見るには少し早すぎる時間だと思う。けど、きっとこれは夢なんだ、うん、そうだ。
そんな俺の気を知ってか知らずか、再び短い音と共に新たなメールが届く。
さっきのものと同じで件名なしのメールを恐る恐る開くと、そこには
『今から24時間後に○○公園に1億円をもってこい。警察に通報したら、柏木萌葱の命はないと思え』
なんていう在り来りな脅迫文。
1億なんて・・・・・・一瞬絶望しかけたが、思えばあいつは社長令嬢。あの会社の社長であれば1億なんて簡単に用意できるはずだった。
社長令嬢であることを思い出すと同時に、あいつがこういう目にあっているのも理解できた。
だが、納得はできていない。
俺は持て余した感情をぶつけるように乱暴にノートパソコンを閉じると、それを持ってマンションを出た。行き先は決まってる。
数十分後。息を切らした俺は、音無先輩の家の前に立っていた。
「なるほど、ね・・・・・・」
話を聞いた先輩はそう呟くと、静かに席を立った。
そのまま台所に行った先輩の手にあったのはチェンソー。
「その○○公園とやらに早く案内してくれるかしら」
「いやいやいや。するわけねぇだろ!」
「黙りなさい。私の萌葱ちゃんに手を出した奴は、明日の夕飯のハンバーグにするって決めてるの。」
怖い。すごく怖い。先輩の場合、本気でやりかねないから余計に怖い。ていうか、何故一般家庭(それも女性の一人暮らし)にチェンソーなんてものがあるんだろうか。
「あぁ、これ? あいつをミンチにするために昔買ったものよ。」
あいつとは、元彼のことだろうか。なんにしても、音無鈴。敵に回してはいけない女性だった。
「とにかく、落ち着け。俺があんたのとこに来たのは、敵をミンチにしてもらうためじゃねぇ。柏木家に連絡を取ってもらいたかったんだよ。」
「無理よ」
間髪いれずに返される言葉。
「なっ?!」
社長の電話番号ぐらい知っているものだろう、普通。
「違う。電話番号は知ってるわ。でも、そこにかけても何もできないから、無理だと言ってるの。」
どういうことだ?
「A君。あなたは私たちの立場をわかってるの? 私たちはあの人たちの下にいる何十人もの社員のうちの一人に過ぎないのよ?」
「それでも、萌葱の名前を出せば・・・・・・」
「あなたは、あれを読んだのでしょう?」
「あれっていうのは?」
聞いた瞬間、あれ、が何を指すのかを俺は気づいていた。
「あの日記のことよ。」
「・・・・・・」
「あれを読んだのなら、わかってるはず。萌葱ちゃんは、もう」
「見放されてる、そう言いたいんだろ――」
違う、それは間違っている。そう叫びたかった。だが、それは紛れもない事実で。
「そうよ・・・・・・私は分かる。きっとあの人たちなら、会社を優先させると思うわ。それこそ、あの子を見殺しにしてまでも」
反論は、出来なかった。
「けど、だったらどうすればいいんだ? 警察も頼れない、金も用意できない。だったら・・・・・・」
「だから、私が行くって言ってるの」
諦めかけた俺に、先輩はチェンソーを持ち上げてそう言った。
「そんなの、無茶に決まってるだろ!」
「やってみなきゃ、わからないじゃない! このまま、何もしないであの子を見放すの?!」
「どうすりゃいいってんだよ!」
叫ぶ俺。先輩は、どこか冷たい目をして
「あのね、ここはゲームの世界じゃない、現実なの。都合のいいヒーローなんてものはいないのよ。だったら、今動ける人が、動くしかないのよ。」
そう、静かに諭す。
「あたしは、行く。萌葱ちゃんを助けるために。」
そう、言い残し去っていこうとする先輩。その背中に俺は、
「待てよ」
先輩の考えのほうが、俺なんかよりよっぽど現実的じゃない。それだったら、俺にだってできることがある。そう気づいたからだ。
「考えが、ある」
俺の言葉に、怪訝な顔をして、それでも僅かに希望をにじませた顔で先輩は振り向いた。
ありがとうございました(*^_^*)




