第二十三話 Diary
急展開?
読みづらいかもしれません
「ここにも、いない、か。」
一応フロアの全部の部屋を回って(全部柏木家のもの)俺はため息をついた。
こんなことは、初めてだった。
これまで萌葱が外出するときは俺か音無先輩のどちらかが一緒だったし、そもそもあいつは引きこもりだ。必要最低限しか外出したがらない。
そんな、あいつが一体どこに・・・・・・。
しばらく考えてみるが、あいつが行きそうなところなんて思いつかなかった。
それに、思えば俺があいつに出会ったのは外だ。確か、メガネを買い換えに行くつもりだった、とか言っていたっけ。だったら、きっと今回もそういう用事なのだろう。だったら、あと何時間かしたら戻ってくるはずだ。
俺は電気のついたリビングを見渡しながら、そう納得した。
視界に入ってきたのは、先程からずっと光り続けているパソコンだった。
俺は何気なくそこに近寄り、さっき萌葱がシャワーを浴びている間と同じようにマウスを手にとった。
ずっと暗いままだった画面に光が戻ってくる。
と、そこに現れたのはいくつもの言葉の群れ。
『おーい』『もえぎー?!』『珍しいな、あいつがこのイベントを逃すなんて』『確かにww』『どうしたんだよ、戦姫!』『はやくしないと行っちまうぞ』『お前がいないと倒せるかわかんねえけど』『おい』
仲間からのメッセージ。何十ものそれを見て俺はあいつが「ここ」を現実とするのも、無理はないと思ってしまった。
それほどまでに、こいつらは「もえぎ」を必要としていた。
けど、それは決して「萌葱」では、なかったが。
「・・・・・・」
俺は無言のまま、「×」をクリックした。
とたんに、広がっていたものは一箇所に収束されて、吸い込まれるように消えていく。所詮こんなものなのだ。簡単に消せる現実。
「ん?」
俺の目に映ったのは、ネットのタブが消えたあとに残ったデスクトップ。そこにたった一つだけ浮かぶ、『日記』と書かれたアイコンだった。
本来なら、いけないことだと思う。2ヶ月一緒に暮らしていたからといって、萌葱と俺は別々の命を持つ個体だ。互いのプライパシーは侵してはいけない。
そう、思っていたはずなのに手が勝手に動いた。画面上で緩やかに動き出した矢印が、そのアイコンの上でピタリと止まる。
カチッ
嫌に大きく響いた音と共に、パソコンから微かな駆動音が漏れ出した。俺は、知らぬうちに止めていた息をゆっくりと吐き出しながら、その画面を食い入るように見つめる。
やがて、パソコンの画面に現れたのは――
『ロックされています』
そんな文字と、パスワード入力の欄。
どこかホッとしながら、俺は諦めようと手を動かしかけ、不意に思い至る。
あいつなら・・・・・・。
ゆっくりと、確かめながらキーボードを操作していく。打ち込まれたのは『1204』の短い文字列。
それは、いつだったか酒乱に変貌した誰かさんが教えてくれたことだった。12/4。柏木萌葱が生まれた日。単純なあいつなら、こうするだろう。そんな確信が俺にはあった。
祈るような気持ちで、でもどこか外れていて欲しいという思いも込めて、クリックをする。
やがて、画面いっぱいに広がった「それ」は、柏木萌葱の全てが詰まっていて、俺は後悔したのだった。
――あぁ、見なけりゃ良かった、と。
『12/4
今日は、私の14歳の誕生日です。父さんがくれたノートパソコン。何に使えばいいかわからなくて、結局これを書いてみることにしました。なんで敬語なんだろ。えっと、今日はいろんなことがありました。まず――』
そんな一日から始まった日記には、色々なことが書かれていた。
『5/4
今日は梨花と渋谷に行きました。やっぱりゴールデンウィークは人がすごかったです。すごく疲れましたが、梨花が――』
『8/5
父さんが、パソコンのゲームを作るチームに入ったんだって! すごく喜んでた。やってみたいな』
何気なく出てきた名前に驚く。あいつにも、友達がいたんだ。そんなことに改めて気づき、同時にその関係はどうなってしまったのか、そんな疑問が頭をもたげた。
そんな幸せな記録が続いていく。俺の知らない柏木萌葱が、そこには確かに存在していた。ただ、
『9/4
父さんが倒れちゃった』
そんな一文から、それは崩れていく。
これ以上は見てはいけない、そんな気がしながらも読むのをやめることが出来なかった。
『9/5
医者は、ひどいと思う。だって、あんなに元気だったのに――』
『9/30
母さんはずっと泣いてばっかり。私だって。父さんがいてくれたら――』
『4/21
母さんは最近すごく嬉しそう。いつも綺麗に化粧して。私はあの人、好きじゃない。母さんは、父さんのこと忘れちゃったのかな――』
『6/5
今日から、私は柏木になった。ジェーンブライドなんてキライ――』
『8/23
母さんは最近帰ってくるのが遅くなった。柏木さんと一緒にいるのかな――』
『12/4
今日で私は17歳。母さん、覚えてないよね、きっと――』
そこからの日記に「母さん」が現れることはなくなった。
『1/1
初詣に梨花を誘ったら、断られた。仕方ないか。けど、行きたかったな――』
『2/5
学校なんて、つまらないや。それよりもゲームをしようかな――』
『3/3
ひな祭りです』
『7/7
七夕です』
まるで業務連絡のように淡々と続いていく言葉。やがてはそれもなくなって、コンピュータが掲示する日付だけが並んでいく。
一体、どれほどの月日を過ぎた頃だったろうか。
それは、彼女が17歳になった年を2年過ぎたある日の記録。
『11/2
私が必要だって、あの人がいってくれた。すごく、優しくて――』
けど
『12/4
あの人がいなくなっちゃった。お金も持ってかれた。でも、きっと、戻って来てくれるよね――』
そして、また数字だけの羅列が続いていく。それが再び途切れたのは彼女が20歳になった年。
『12/24
鈴さんは、クリスマスだからって言って私をあちこちに連れ回した。正直、人ごみなんて本当にキライだけど、でも、少し楽しい、かな――』
それは、彼女が音無鈴先輩に出会った時の日記。そこから、少しだけ昔の彼女が蘇ったような華やかな文章が続いていた。しかし、それすらも結局終わる。
音無先輩が去った時の日記に書かれていたのは『もう嫌だ』の一言。
そこから彼女の言葉が書かれることは、なかった。
「・・・・・・」
俺は我知らず止めていた息を吐きだした。
と、それを見計らったかのように静まり返ったリビングに小さなメロディーが響き渡る。聞いたことがないそれは、パソコンから響いているようだ。
俺は黙って光っているアイコンをクリックする。
現れたメールフォルダーで、まず目についたのが「梨花」からの膨大なメール。それらを見ながら微かに痛みを訴えた胸を抑え、俺は受信箱をクリックする。
そこにあったのは、見知らぬメールアドレス。そして
『柏木萌葱は誘拐した。』
そんな一文と涙の跡の残る顔で気を失った、萌葱の写真だった。
次回は萌葱視点で、今の文章でぼかしていたところを補っていきます。
ありがとうございました<(_ _)>
評価、感想、ダメだし どしどしそうぞ!




