第二十二話 彼女の知らないこと
なんかキャラが・・・
ネットについては、実にいろいろな意見があると思う。
学校などでは、その利便性とともに危険性を学ぶ。その危険性を主張するもの、ネットに依存するもの。様々な意見を持つ人が、今の社会にはいる。
世界中の人とのつながりを得ることができると同時に、犯罪行為や、犯罪組織などに悪用されることもある。特に、ここ最近の世の中は良くも悪くも、ネットが中心となっていることもある。
ネットでのつながりについて、元・ネット世界の住人だった俺から言わせてもらえば、やはり現実が一番だと思う。
ネットは偽ることが容易にできる。善意の顔をした悪意なんて、それこそ膨大な情報の海にいつだって紛れ込んでいる。麻薬の密売、出会い系サイト、サイバー犯罪と呼ばれる闇がいつどこに潜むかわからない世界。それだったら、目に見える現実で生きていきたいと思う。
彼女は、そうは思わなかったようだが。
近場にあった本屋で、全く頭に入ってこない文字列をぼんやりと見ながら、さっきの出来事を思い出す。
「ネットだって、現実です――っ!!」
肩をわずかに上下させ、萌葱は立ち上がった。そのまま、立ちっぱなしの俺を真正面に見据え、にらみ続けている。
俺はといえば、萌葱の突然の怒号の訳が分からず何も言えないでいた。さらに萌葱は続けた。
「私にとっての現実は、ここなんです!」
と、パソコンの画面をさしながら言う。
「でも、それは現実じゃない。現実は、ここなんだ。」
俺は努めて平静を保つようにしながら言う。萌葱は震えた指をおろしかけ、それでも、と小声で呟き
「ここなら、私を必要としてくれる人がいるんです・・・・・・ここでしか、私は必要としてもらえないんです!」
先ほどよりも強く指を突きつけて叫ぶ。どこか泣きそうな表情の萌葱。
「それは・・・・・・それで、いいのかよ・・・・・・お前は?!」
呆気にとられながらも勝手に唇からこぼれ落ちて言った言葉は、俺の思っていた以上に鋭く響いた。その言葉に、彼女は大きく瞳を揺らして、
「いいのっ・・・・・・もう、そうするって決めたの――っ!」
敬語ではなくなった言葉は、彼女が心からそう思ったことを証明していた。言いたいことはたくさんあった。だけど、
「お前は・・・・・・」
「出てって!!」
俺の言葉を遮って、萌葱は両手を耳に当てながらまるで子供のように金切り声で叫んだ。
普段の静かな様子からは想像できないほど取り乱している。
これが本当の萌葱なのかもしれない。俺はぼんやりとそう感じながら、どうにもできず立ち尽くす。
と、萌葱はその様子にしびれを切らしたのか、キッと俺を睨みつけたまま、テーブルの上へと手を伸ばす。その指先が、さっきまで萌葱が飲んでいたコーヒーのマグカップを掴み取る。
「――っ!」
俺は、マグカップが顔のすぐそばを飛び、後ろにあった壁にぶつかって割れる音を聞き、ようやく足を動かした。
広い玄関を抜けて廊下に出る。背後でバタンと勢いよくドアが閉まる音が響く。
その音の中に微かに、しかし確かにすすり泣く声が混じっていたのに、俺は気づいていた。
あぁ、結局あいつが社長令嬢だっていう話は本当なのかを聞くのを忘れてたな。
あいつは、どうしてあんなに・・・・・・。
「くそっ。」
思わず溢れた悪態に、ギョッとしてこちらを見てくる隣の客に、軽く頭を下げて俺は本屋を出た。
別にどこに行こうと思ったわけではない。というか、行くあてなんてなかった。雑多な思いが浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返し、目的さえも考えられない。いや、そもそも目的なんてなかった。
相変わらずの人ごみの中を、うつむきながら歩く。少し意識してみると、道を歩く様々な人々が話す言葉がするすると耳を通って侵入してくる。
あのスーツの人は、見たまんまビジネスマンのようだった。抑えているんだろうが、焦ったように電話の相手と話す声が聞こえている。
あの女子高生の軍団は、堂々と女子高生をやっている。目立たないように意識してるのか、それでもはっきりと分かる色に染められた髪を、見ていたらものすごい目で睨まれた。
笑い声。怒鳴り声。泣き声。はしゃぎ声。様々な感情が織りなしていく喧騒。それらと共に、表情があり、仕草があり、色がある。
これが、現実だった。ネットの世界には決してない現実。その眩しさを彼女はまだ知らないのだろう。
だったら、
「俺が、教えてやるか。」
結論はでた。契約を思い浮かべる。養ってやってるんだから、少しくらい保護者ヅラをしたって良いはずだ。
だったら、俺は保護者として彼女がこの現実を生きていけるように、伝えよう。現実の素晴らしさを。
俺は足を止め、踵を返す。
目指すのは、都内でも有数の存在感を放つあの建物。
大きく息を吸い、俺は歩き出した。
意を決して、ドアノブに手をかける。もしかしたら、鍵がかかってるかもしれないと心配していたが、それはあっさりと動き、俺は萌葱の部屋に入った。
何を言うかは全く決まっていなかった。彼女を納得させる言葉なんて、たくさんの情報をあさっても見つかりはしなかった。
「おい! もえ、ぎ・・・・・・?」
真っ暗なリビングに踏み入った俺は、怒鳴りかけていた声が急速にしぼんでいくのを感じながら、辺りを見回した。
何度見てもそれは変わらない。そこには、この2ヶ月間、この部屋に確かに存在したものがなかった。
キッチンへと行くがやはり誰もいない。念のため浴室を覗くがそこにも人影はなかった。
「・・・・・・どこいったんだ、あいつ。」
リビングには、チカチカと何かを訴えるように光るパソコンのライトだけが窓から差し込む夕日とともに僅かな陰影を作り出している。
あいつは・・・・・・柏木萌葱は、いなくなっていた。
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