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第二十一話 ネット≠現実

よろしくお願いします<(_ _)> 

 それにしても、人が多い。


 電車内で感じるのは、さっきからそればかりだ。

 まだ、通勤ラッシュの時間ではないはずなのに、電車はぎゅうぎゅう詰め状態だった。その理由を、俺は電車を降りて、駅の中を歩いていた時にようやく知ることができた。駅にある色とりどりの幕には、いずれもセールの文字が踊っている。


 1月1日


 今日は元旦だった。むしろ、今まで気づかなかったのが不思議だ。まぁ、今までの俺にとって元旦もなにも関係なかったしな。

 ん? 

 でもそう考えると、何かがおかしいことに気づく。今俺は会社の帰りで・・・・・・これだ。正月は普通会社が休みになるはずじゃあ・・・・・・

 まぁ、いいか。あとで振替があるんだろうし。俺は歩くスピードをあげて進む。会社の振替なんて、さっき聞いた事実に比べれば、気にするようなことじゃなかった。


「ただいまー」

「おかえりなさいませ。」

「・・・・・・」

なんか違うような気もしたが、どうせ先輩が吹き込んだのだろう。直しても無駄だ。

 やや呆れながら俺が萌葱の部屋に入ると、とたんに鼻腔を刺激するのは香ばしい匂い。ていうか、香ばしすぎる匂い。これは、うん、あれだ。


「きゃぁああああ!!」


 彼女と料理をしている時にも何度か聞いた声が聞こえてくる。

 焦らずゆったりとキッチンに踏み込んだ俺が見たのは予想通りの光景。

「こ、これどうにかしてくださいっ! わるものAさん!!」

黒い煙を吐き出し続ける何かの入った鍋を振り回している萌葱。やはり彼女に目玉焼き以上のものを求めるのは酷だったようだ。




「ごちそうさまでした。」

「・・・・・・ごちそうさまでした。」

急遽購入したサンドイッチの包装紙を、どこか悔しげに見つめる萌葱。

「まぁ、仕方ないと思うぞ。」

「仕方なくないです・・・・・・女性として家事スキルは必須だと鈴さんが言ってました!」

スキルとか言ってるあたりが、既に女性として残念すぎる。


「シャワー浴びてきます。」


 萌葱はしばらく眉根を寄せていたが、やがて体から漂う焦げた匂いに耐えられなくなったのかそう言って席を立った。

 シャワーも、萌葱に訪れた変化の一つだ。信じられないが、今まで萌葱は3日に1度シャワーを浴びればマシな方、だったらしい。この話を聞いたときは正直、本気でひいた。

 それが今じゃあ、1日に一度は必ず浴びている。たいした進歩じゃないだろうか。


 シャワー室は当然リビングに隣接している。そこはさすがの高級マンション。やはり浴室の広さも半端ない。広い浴室内に反響する水音が、リビングにはっきりと響いてくる程度には。

 俺はかすかに聞こえてくる上機嫌な鼻歌を努めて聞き流そうと努力していた。

 と、必死に平常心を保とうとしていた俺の視界に、ふと彼女のパソコンが映り込む。いつもは彼女が近くにいるから、ちゃんと見たことがなかった。

 現実の世界でみるソードマギカ・ストーリーの世界観というのを感じてみたくて、何気なくパソコンに向かう。

 SMSの、メニュー画面で止まっていたパソコン。一時停止を解除すると、とたんに耳慣れたサウンドがなりだす。そのまま、しばしメニューを閲覧していく。

 勝手にプレイしたら、あとが怖い。萌葱のキャラクターの情報へと目を通していく。


――うわぁ・・・・・・「もえぎ」って・・・・・・まんまじゃねえか。


 いや、他人のプレイにケチをつけるつもりはないが、それにしてももうちょっとファンタジーな名前とかをつけろよと言いたい。

 そんなことを思いながら、彼女のステータス(化物級)を見ていた俺は、ふと『パーティメンバー』とアルファベットで書かれたところを見つけ、クリックする。

 特に意味はなかった。ただ、彼女のパーティのレベルが知りたかっただけだった。

 そんな俺の視界に飛び込んできたのは、『テオ』、『ルーク』、『ライオット』の名前。全員男だった。いや、それはどうでもいい。俺が気になったのは、それらの名前に妙に聞き覚えがあったことだ。

 思い出すのは、2ヶ月前のこと。初めて会ったとき萌葱は俺を、「テオ」と呼んだ。「ルーク」「ライオット」それらの名も、同様だ。後になって、視力の問題から見間違えたと言っていたが、その時萌葱は彼らを「友達」と称していた。けれど・・・・・・

 と、何か漠然としない感情に悶々としていると

「はぁ、気持ちが良かったです。」

そんなことを言いながら、萌葱がリビングへと出てくる。もちろん、服は着ている。

 彼女は一瞬、リビングに俺の姿を認めるとメガネをかけていない目を見開いた。まぁ、いつもは彼女がシャワーを浴びに行ったら、俺は自分の部屋に戻っていたからな。

 その、視力の低い目で俺が何を見ているかにようやく気付いたとき、萌葱はほのかに朱く上気していた顔を、さっと青くした。

「それは――」

「ん、あぁ。少し覗いてただけだ。悪かったか?」

「・・・・・・そういうわけでは、ないですが。その、見てませんよね・・・・・・」

何をだろうか? 状況からして、俺がSMSのプレイ画面を見ていたことは明白なことだ。わざわざ聞くまでもない。

 じゃあ、こいつは一体何を見たのかを聞いているのだろうか。

 疑問に思った俺が口を開くのより早く、萌葱は


「ぁあっ!!」


と叫ぶと、俺を押しやってパソコンへと向かう。

「7時に、特別クエストの配信だったんです・・・・・・」

時計を見る。俺が帰ってきてからだいぶ時間が経っていて、時刻は既に7時を大きく回っていた。

「早く行かないと・・・・・・」

焦りながら、ものすごい速さでマウスを操作していく萌葱。俺は

「ルークとか言う奴らと行くのか?」

その背中に問いかける。彼女はほんの少し体を揺らしただけで、何も答えない。

「前に言ってた友達ってのは、ゲームの中でのことだったんだな。」

他意はなかった。しかし、

「だめ、ですか?」

萌葱が、押し殺した声で聞いてくる。やはり、その手はせわしなく動かしたままで。

「いや、別にダメとは言ってない。ただ、結局はネットの、二次元だけのつながりだろ?」

自立するには、やっぱり音無先輩のように現実で親身になってくれる友人が必要だ。そんな気持ちを込めて言ったつもりだった。けど。

 萌葱の手がピタリと止まる。

 彼女は、目を大きく見開いて俺を睨んだ。その目に浮かんでいるのは、怒り、だろうか。

 なんにせよ、俺は萌葱の逆鱗に触れてしまったようだった。なにか、まずいことでも言っただろうか。


「ネットだって、現実です――っ!!」


 静まり返った広いリビングに、萌葱の震えた怒号が響き渡った。


萌葱さんにも譲れない何かがあるみたいです。


ありがとうございました(^-^)

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