俺は諦めが悪い 第5話 森の主のねぐら
静かになった森の中で、四人はしばらく言葉もなく立ち尽くしていた。
「……当たった」
ミーナが、自分の手のひらを見つめてつぶやく。
「アタシの魔法、ちゃんと当たった……」
「努力の結果は、出るのが遅いだけですよ」
誠二が言うと、ミーナはぷいと顔をそむけた。
「べ、別に。たまたまよ、たまたま」
だが、その耳の先は赤く染まっていた。
「ウチ……魔力、まだ半分以上残ってます」
セラが、信じられないという顔で言った。戦闘のあとに魔力が残っているのは、パーティに入って初めてらしい。
レオンは剣を収め、しばらく黙って誠二を見ていた。やがて、そっぽを向いたまま、ぼそりと言った。
「……悪くなかった。かもな」
「がっはっは! 今夜は祝い酒じゃな。嫌なことは全部、酒飲んで忘れちまえ!」
ガルドが豪快に笑う。誠二は、首を横に振った。
「いいえ。今日のことは、忘れないでおきましょう。うまくいったときのやり方こそ、覚えておくものです」
ガルドは目を丸くし、それから髭を揺らして笑った。
◇
夕暮れどき、一行は森の主のねぐらにたどり着いた。岩山にぽっかりと口を開けた、巨大な洞窟だ。
入り口の前で、ミーナが足を止めた。地面に、燃え尽きた香の跡と、紋章の刻まれた小さな札が落ちている。
「これ……魔物寄せの香よ。しかもギルドの封印札。誰かがわざと、ここで主を怒らせたんだわ」
「そ、そんなわけないだろ。推薦の約束が……」
レオンの声が、尻すぼみになった。誠二の背中に、冷たいものが走る。
主を怒らせたうえで、何も知らない若者たちを送り込む。誰かが、このパーティを囮に使ったのだ。
その瞬間、洞窟の奥から、地鳴りのような咆哮が響いた。
闇の中から現れたのは、小山ほどもある漆黒の獣だった。赤い目が六つ、こちらを見下ろしている。
「主だ……! 俺がやる!」
「レオンさん、待って――!」
誠二の制止も聞かず、レオンが飛び出す。獣の巨大な前足が、レオンをかすめ、その先にいたセラへと振り下ろされた。
考えるより先に、体が動いていた。
誠二はセラを突き飛ばし、その前に立った。次の瞬間、山が落ちてきたような衝撃が全身を打ち抜いた。
体が宙を舞い、岩壁に叩きつけられる。
累積値:12,9……
板の文字が、ノイズのようににじんでいく。仲間たちの叫び声が、ひどく遠い。
薄れていく意識の底で、なぜか、夏のグラウンドの匂いがした。乾いた土と、汗と、遠くで鳴る金属バットの音。
――ああ、懐かしいな。
そして、誠二の意識は、闇に沈んだ。
(第6話へ続く)




