8.天魔の起源の書
突如強い光が差し込んできた。
そして目が覚めた。目に映っているのは天井だろうか。そうか、ここは病院。あのバンテインとかいう白金眼鏡が病院に運ぶとか何とか言ってたな。
『おはようです。樹くん』
「のあっ!びっくりした!急に話しかけんなよ!」
『ご、ごめんなさいです!』
「てか意識があっても話せるんだな」
『もちろんです。僕は精神精霊。いつでも心に潜んでいるのですからそりゃ好きなタイミングで話しかけられますです!』
「そうなのか」
「如何したのですか。一人でブツブツと喋っておられたようですが」
そう言いながら見覚えのある特徴的な白金ツートンが入ってきた。バンテインだ
「あぁ、悪い。実は俺の中にせいし…」
『ダメェェェェェっ!』
「うわぁぁっ!んだよ!急にでかい声出すな!」
『僕の事は他の方には絶対に内緒です!』
「うぇ?!なんで?」
『いいから!内緒です!』
「わ、わかったよ」
「あ、あのぉ。大丈夫ですか」
「あぁぁぁあ!失礼失礼!ちょっと寝ぼけてた見たいですわ!起きた!今起きました!びっくりさせて申し訳無い!ははは、ははははは!」
「そうですか。なら良かったです」
これ耐えんのか。ラッキー。
『危なかったですね』
「先に言えよ。言っちゃダメだって」
『言う前に樹くんが言ったんです!』
「どうですか」
「はっ!?はい?」
「しばらく寝て少し記憶が戻ったりはしていませんか」
「悪いがしてない。この世界の事、自分の事。なんも知らないんだ」
「そうですか。でしたらぜひこれを」
バンテインが机に数冊の本を置いた。どれもかなりの分厚さのようだ。
「これは?」
「この世界に伝わる伝記や物語を集めた物になります。これを読んでください。少しはこの世界について思い出す手助けになるかもしれません」
「なるほど。分かった。ありがとう」
「いえいえ。それでは三日後までには全て読んでおいて下さい。またお話を聞きに来ますから」
「りょ、了解っす」
そう言ってバンテインは部屋から去っていった。
伝記と物語…か。
確かにこの世界がどう言った世界なのか知る為にはそういうものが役に立つだろうな。
ん?いや待てよ?
俺って字読めないんじゃ…?え、もしかして詰んだ?
『大丈夫ですよ!』
「え?」
『僕の力で樹くんも字読む事は出来るようになってますです!』
「力?」
『はいです!この前は樹くんと僕の心の親和性が薄かったので文字を読んだりは難しかったですが樹くんがこの世界来て2時間くらい経ったので読めると思うです』
「もしかしてすぐ言語が理解できたのも…」
『はい!僕のおかげなのです!』
「てかこの世界に来てからって…お前は俺が別世界から来たのを知ってんのか」
『もちろんです』
そうか…リューがこの反応なら異世界からの転生はこの世界ではそんなに珍しいことではない。ということなのだろうか。
まぁそれは一旦置いて置こう。字が読めると言うなら早速読んでみるとしようか。どれどれ。お!本当に読めるぞ!んーと?”天地創造記”、”全奪の女神”に”魔神戦争伝記”。
どうしようどれから読んでいいのか全くわからん。
ええい。こうなったらテキトーに一冊取って読んでやる。えい!これは…天魔の起源か。どんなそんなのだろうか____________
本を開き読み始めたら時間が経つのは一瞬だった。この本から読み始めたのは正解だったかもしれない。この本には天使と悪魔の出自が記されていた。
約1万年前。
この世界には…いや。世界になる前の無の空間にはただ一柱の女神だけが存在した。女神は全ての力を持っていたがただ一つどうしようもない問題があった。それは、孤独感。どんな力を持とうと競う相手も共有する相手もいない。次第に女神はそこにいるだけの時間を嫌悪するようになった。そして自身の力を全て使い自らの体を5つの神に分けた。創造神、破壊神、天命神、豊穣神、英雄神。それぞれに別の意志を与え孤独を紛らわせようとした。そうして神々は退屈を遠ざけた。その後神々は自分たち以外の存在を観察する事に興味が湧いた。生きるという事を知りたくなったのだ。そして創造神が作った世界に全ての神が力を合わせ天使族と悪魔族を産み落とした。
天使と悪魔は最初はお互いを尊重し助け合い生きていた。そして長い年月を過ごした後に自分達を生んだ神々への謁見を目指すようになった。より高度な存在を目指すためだ。神々はそれを見て口を揃えて言った。
面白い。と____________
神々は天使と悪魔の前に現れるとこう言った。
「争え。勝ち残った種族のみ。神々への謁見及び加護約束する」
これを聞いた天使と悪魔はそれぞれの総力を上げて戦争を始めた。神に近づくため神からの加護を得るため両種族は殺しあった。しかし互角の戦いが長く続き決着が着く頃にはどちらも全滅せんとしていた。それをよく思わなかった神々は”穢れた魂”《ステイン》を生み出し双方を納めた。それ以来天使と悪魔の関係は治ることなくお互いに恨みあっている。
という内容だった。
つまり天使と悪魔は神を目指して戦い合い神に止められ関係がそのまま治るはずもなく今もバチバチの関係だということか。なかなかしっかりした軋轢がありそうだな。
『ええその通りです』
「うぉ、びっくりした」
『天使と悪魔が馴れ合うなんて絶対に無理なのです。なので住む場所や領地は区別されていますです』
「区別?」
『はい。天使しか入れない場所は区画は聖域。逆に悪魔の区画は邪域と分けられてるのです』
「なるほど?」
『まぁ一応統一区と呼ばれるどちらが入っても問題のない区画は存在しますですが仲良しこよしで生活しているかと言うとそうではないですね』
「そうか。相当でかい戦争だったんだな」
『はい。戦争は約2000年間続きましたから』
「2000年!?そんなにか!?」
『その間に失われた命は数知れずお互いに恨みあってるという訳なのです』
もし本当に2000年という果てしなく感じる時間を殺しあっていたのだとしたらリューの言う通り分かり合うのは今更無理だろう。だからこそ聖域、邪域と住む場所を変え関わらない共生を目指した。でもならなぜ統一区なんて作ったんだ?
『それは別のお話が関係するんです』
「別のお話?」
『はい。統一区ができたのは約1000年前。最近なんです』
1000年が最近…か。さすが精霊、時間感覚が狂ってるな。
『1000年前、邪域の近くで倒れている天使がいたのです。天使は死にかけていましたがそれを見かけた悪魔がこっそり邪域の中に連れて入り手当をして逃がしたんです。その後その天使は空皇となり天使と悪魔の共存を願って統一区を作りましたです』
空皇か…。そういえばさっきバンテインがそんなようなこと言っていた気がする。
「空皇ってのはこの世界の王様的な感じか?」
『そうです。この世界を統べる最も神に近い皇帝です。死ぬか辞退するまで変わることは無く新しい空皇は特殊な方法で決まるのです』
「なるほど…な」
まだまだ知らなきゃ行けない情報が多そうだな。
次の本でも読もうかと思ったその時耳にノックの音が入ってきた
「どうぞ」
「どうですか。あれから3時間。本は読めましたか」
「バンテインさんか。あぁ。一冊だけだが読めたよ」
「どうやら文字の記憶は戻ったようですね」
あ!そうじゃん!
読めねぇって言ってたのに読めちまってるから記憶が戻ったと思われてる!
「あ、あぁ。その辺は戻ってきたっぽい」
「………そうですか。これは吉兆ですね。そうだ、良ければこの病院内を散歩されませんか」
「散歩?」
「ええ。少し眠り休んで字の読み方の記憶が戻った。歩き回り刺激を入れたらまたなにか思い出すかもしれませんよ」
「た、確かに?」
これは好都合だな。病院内を歩き回れば気分転換もそうだがこの世界についてなにか知れるチャンスかもしれない。
「ならそうするよ」
「ええ是非。あ、そうだ。一つだけよろしいですか」
「え?あぁ。なんだ?」
「外には出ないでください」
「わかった」
「ありがとうございます。ではご自由に見て回ってみてください。2時間後くらいにまたここに来ますのでその時にはお戻りください」
「あいよ」
会釈をするとバンテインは去っていった。
正直。違和感を覚えた。あいつの目的は俺の記憶の復活。それは間違いない。だけどこんなに良心的に接する必要はあるのだろうか。ほんの数時間前まで俺は拷問されていた。つまり俺の知らないところで俺の体は何かをやらかした、又はやらかしたと思われている訳だ。そんな相手にここまでするのはなんでなんだ
『何はともあれバンテインは信用し過ぎない方がいいです』
「あぁ。分かってる」
『散歩は行くんですか?』
「あぁ。行こうと思ってるよ」
『…そう。ですか。わかったです。またなにか分からないことがあったら聞いてくださいです!』
「おう。ありがとうな」
さて。新しい何かを発見するために冒険に行きますか。立ち上がり病室の扉を開けた。目の前に広がるのは広大な………廊下だ。
正直病院というより巨大旅館のような印象だ。木目調の長い廊下が続き大窓と多くのドアが並んでいる。
人の往来は一切なく無人だった。
「ま、テキトーに歩くか」
と一歩を踏み出した途端。目に何かが迫ってきた。
避けるまもなくそれは俺の全面に直撃しとてつもない激痛が走った
「ぶへぇっ!」
情けなく吹っ飛ぶ俺。
すっ転んだ先で激痛に耐えながらその何かを見定める。なんと。扉だ。
猛スピードで開けられた扉にぶっ飛ばされたらしい。
全くどこのどいつだよ!扉を開ける時に思いっきり開けるんじゃねぇ!俺がどっかの猫ならペラペラになって空中をヒラヒラするところだっただろうが!
そんなイライラと痛みを感じて睨んでいると扉が閉まり扉の影から人の姿が現れる。サラサラの長いプラチナブロンドの髪に大きな純白の羽。青い綺麗な瞳に読者モデルやアイドルにも勝る美しい顔面を携えた神々しい何かが俺を見つめている。
いや、何かではない。それは紛れもなく…
「天使…様…!」
「うわぁぁぁぁぁ!ごめんなさぁぁぁぃ!」
その天使は俺に目掛けて走り出したかと思うととてつもない跳躍を見せた後俺に抱きついてきた
「よく確認しないで開けてぶっ飛ばしちゃいました〜!本当にごめんなさい!!うわぁぁぁん!お怪我は?!お怪我は!?!!痛いですか?!痛いですよねぇ!ごめんなさい!!」
すごい取り乱してる。でもなんだろう。この温かさ。
凄く落ち着く。柔らかい何かが俺の腕に触れている。
あぁ幸せ。幸せだぁ…
「なんとか言ってください!大丈夫ですかぁぁぁ!?!どこが痛いですか!」
「全身が幸せです!」
「意味わからないです!!」
しまった。思わず本音が。
いかんいかん。童貞すぎて女子に抱きつかれただけで危うく昇天するところだった。
「お怪我が無いようで何よりです…!」
「あぁ、大丈夫。心配させて悪かった」
「い、いえ!私の不注意だったので。あ!!すいません!私行かなきゃ行けないんです!!本当にすみませんでした!失礼します!」
とんでもない速度で頭を下げこれまたとんでもないスピードで踵を返し走り去っていってしまった。
「な、なんだったんだ?」
まぁいいか。幸せな思いも出来た事だ。仕切り直して散歩に出かけるとしよう。
コツン────
ん?なんか蹴っ飛ばした。
これは?折りたためる手鏡…?だろうか。なんでこんな所に……。あっ!さっきの天使ちゃんか!
あんな激しい動きしたから落としてったんだ!
全く。行かなきゃ行けないって言ってたがどこいったんだろう。いくら俺が被害者だと行っても俺を心配してとった行動で落としたものなら俺が届けなきゃいけないな。うん。そうだ。探して届けてあげよう。決してあの子にまた会いたいとかできることならお近付きにとかそんな気持ちは微塵もミジンコもナノマイクロメートルも無い。これは善意。下心なんて無い。
ヒーローのお仕事だ。
『言い訳が長いです…』
「うるせぇ!言い訳じゃねぇよ!」
待ってろ天使ちゃん!ヒーローが落し物届けに行くからねぇ!!
俺は廊下の床を蹴り先程の天使ちゃんのごとく素早さで走り出した。
9話に続く。




